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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●





「邪魔して悪かったなァ!終わったら俺らがそのオンナの面倒見てやっから、安心してくたばれや」



私に目を向けながら、柵の外で不気味に笑う男の人たち。
何人いるのか、なんて混乱しきった頭では数えられなくて。
でも、一人相手に卑怯だと言えるくらいの人数ではあるから、できる限りで彼らを睨みつつも厭らしい視線から一歩ずつ後ずさる。

若狭くんに拳を当てた女…でも私は、喧嘩ができるわけじゃない。
男の人相手なら、尚のこと。
いくら頭が混乱しているとはいえ、相手にしていいか悪いかの違いは、わかる。



「…やってみろよ。でもコイツに手ぇ出したら、キレんのはオレだけじゃ済まねェぞ」
「はァ?」
「アイツ怒らしたら最後…オマエらこの国に居所なくなるぜ?日本一の総長舐めンなよ」
「何言ってッか意味わかんねーわ!ちゃんと日本語で言ってくんねぇ!?」
「指一本、てのはだっせぇから言わねェ、やれるモンなら触れてみろよ。オレを潰せたらなァ?」



怖気付くことなく、挑発しながらクスクスと肩を揺らして笑う若狭くん。
ポケットに手を隠したまま柵に足を引っかけて、羽が生えたように軽々と飛び越えるその後ろ姿は、まるで──…

…いや、そんなことは後からでいい。
今は、若狭くんに迷惑をかけないよう、言われたとおりお店の中に入らなきゃ。

もう誰一人残っていないテラスから、店内へと足を踏み入れた。
怯えながらも外を見つめるお客さんや店員さんたちの間をすり抜けて、トイレに向かう。

…途中、一度だけ振り返ってみた。

ふわふわと柔らかそうに揺れる、色素の薄い髪。
ほっそりとしているように見えて、しっかり筋肉がついた体。

…服装は違う。
状況も違う。
向き合う相手も違う。
髪型もほんの少しだけど、違う。
記憶にあるモノとは、何もかも違うはずなのに。



「しろ、ひょう…」



若狭くんが、男の人たちに容赦なく拳を振るう姿は、“あの日”の…



「…若狭くん、なの…?」



“あの時”に見た“彼”の後ろ姿に重なって、しかたないの。










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