第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
ケンチンの言葉に仕方なく、振り払うように女の顔から手を離す。
顔を両手で覆って、ひぃひぃと掠れた声で泣く女に背を向け…すぐ振り返った。
「二度とここに来るな。ファンクラブなんてのも解散しろ。もし残ってたらオレが潰しに行く」
「ヒッ、ぅ、はい、ぃ…ッ」
「また蛍に何かしたら…二度と人前に出れねーようにその面ぶっ潰してやる。忘れンじゃねーぞ」
「ぁ゙、い…はい゙…ッ」
地面に額をつけて返事をする女を一瞥して、肩にかけていた特服を着ながらバブを停めてある所へ向かう。
他の女の相手は後からだ。
手遅れになる前に、蛍のところへ行かねーと。
「場地」
「あ?」
「あいつら知ってること、全部吐かせといて」
「…ん、りょーかい。千冬ぅ、壱番隊集めろ」
「はい!」
…もし、もし最悪な状況に陥ったとしても、蛍を襲った男たちを殺すだけで、蛍には何もしない。逆にうんと甘やかしてやりたい。
「ケンチン、エマに電話かけてやって。必要だったら家行っていいから」
「…俺はいいけど、…お前一人で行く気か」
「ん、オレひとりでいい」
ぞろぞろ行って、変に蛍を人質にとられでもしたら…考えるだけで嫌だ。
だったらオレ一人で行くしかねぇだろ。
バブに跨って、鍵を差し込む。
エンジンをかけようとしたところで、耳障りな少し掠れた声が響いた。
「どうしてあんな女なのッ!!!」
壱番隊に囲まれ始めている女たちの中の、さっきオレが見下していた女の声だった。
「別に可愛くないじゃない!頭も悪そうなのに!なんでっ!?なんでアタシじゃダメなのよッ!??」
蛍を貶す女の言葉に、バブに跨ったまま、また殺意が芽生える。
でも今度は、自分で心を鎮めた。
蛍の…オレの名前を呼ぶ、あの甘くて、ひどく優しい声を思い出して。
「…お前なんかに、蛍の良さはわかんねーよ」
知ってていいのはオレだけ。
好きになっていいのも、愛していいのもオレだけ。
手を繋いで指を絡めるのも、抱きしめるのも、キスするのも、優しく…時に激しく抱くのも。
全部、蛍にしていいのはオレだけ。
「蛍、すぐ行くから」
オレに甘える心の準備、しといてよ。