第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
「し、っ…知ら、な…ッ」
「あ゙?」
「ひっ…」
顔をしかめれば、女の目からさらに涙が流れた。
喉がひくついてよく声が出ないらしく、魚のように口をはくはくと開いては閉じている。
けど知らねー。お前の都合なんてどうでもいい。
このオレが聞いてんだ、答えてもらわなきゃこの怒りをどうやって鎮めろってんだよ。
「オレが女に手ぇ出さないからって調子乗んなよ。もし蛍に何かあったら躊躇なくオマエらを殺す」
「っあ、ぅ、あ゙あ、ひっ…」
「言えッつってんだよ、早くしろ。その化粧くせぇ顔面蹴られてぇか?」
東卍メンバーが勢揃いしているはずの後ろからは、物音ひとつしない。
怯えた荒い息づかいが聞こえてくるのは、目の前にいる女とその仲間からだけ。
体も唇も震えて、焦点がまともにあっていない目でオレを見つめている。
まだ言わねーのか。
怒りが頂点に達して、女の髪を掴んでやろうと手を伸ばしたその時。
ゴクリ、と音をたてて息を飲んだ目の前の女が、ゆっくりと口を開いた。
「み、港の、…第4、埠頭…ッに、2番、倉庫…」
「……」
「ちょっと!」
「言わないって約束じゃあ…!」
「交渉は…!?」
「だ、だって目がマジだもんっアタシ死にたくないッ!!」
約束。交渉。
そのふたつの言葉に、片方の眉が勝手に動いた。
「主犯は」
「ひっ…あ、ぅ…」
「誰だ」
「っぁ、アタ、シ……っで、でもアタシは別れさせただけで、アイツらがあの女をほんとに拉致するなんて思わなかったの!ただの冗談だと思ったのッ!!」
「うっせーよ喚くな」
「邪魔だったの、あの女が!アタシたちは佐野くんに近づくことすらできないのにっ、偉そうに佐野くんの隣で笑ってるのが気に入らなかったのッ!!」
「黙れ」
「はっははっ犯されちゃえばいいんだよあんな女っ!汚されて、二度と佐野くんに顔見せられないくらい傷つけ…ッガ」
「オマエ、死にてぇの?」
オレが睨みつけて低い声で呟いても、泣きながら戯れ言を吐いている女の顔下半分を鷲掴んだ。
女の顎がミシミシと音をたて、骨を砕いてしまいそうなくらい無意識に手に力が入って、一瞬、このまま殺してしまおうか…と考えがよぎる。
「ン゙ぐッ、ぅ゙」
「…やめろマイキー」
ケンチンが静かな声で止めてくんなかったら、たぶん、殺してた。