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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●





「遅刻してごめんなさい…」



女の子たちには目もくれず。
一直線に私の元へと歩いてくる今牛くんに、目を合わせられず俯いて電話越しに謝った。
プツ、と通話が切れたと同時に、私の視界にはスニーカーのつま先が入り込んで。
おそるおそる顔をあげれば、変わらず少しだけ口角を上げた今牛くんが立っていた。

…いつも一緒にいる真ちゃんの背が高いから、わからなかったけど。
女の私から見ると、今牛くんもそれなりに背が高いんだなと気づいた。



「いーよ、2分は遅刻に入んないから」
「え?いや、遅刻って…」
「冗談に決まってンじゃん」



つん、と私の頬を指先で突いて、まっすぐ私の目を見つめながらクスッと小さく笑う今牛くん。
その笑みが、何だか太陽よりも眩しく見えて思わず目を逸らしてしまった。

日差しが強すぎるのかな。
きっと、今牛くんの明るい髪色に反射して眩しいんだ。



「…えと、歯のことも、本当にごめんなさい。治療費は私が出すので、」
「それも別に気にしてないし。もう治った」
「……え、はい?」



見る?と彼は薄い唇を開けて口の中を見せようとするけど、お断りした。

銀歯ついた、という情報までいただいてしまったけど、いつの間に歯医者に行ったのか。
…でも待って?歯の治療がもう済んだのなら…



「…えと、このデートの意味は?」
「ン〜、オレがしたかっただけ」



……ちょっと意味がわからないですね。



「え、え?私とデートして何か今牛くんにメリットってあるんですか?」
「メリットって。シャンプーみたいな言い方しなくても」
「あ、いやそうじゃなくて…」
「まァ、気分。殴りかかってくるオンナはいたけど、当たったのは初めてだったし。歯ァ抜けたのも…ハジメテかな。ウケんね」



何でも無さそうに指先を見つめ、それからふと笑った今牛くんの言葉に思考が追いつかない。

…つまり?
おもしれ〜女ってこと?

おもしれ〜女…つい最近読んだ少女漫画のセリフが、テロップのように脳内に流れ込んでくる。



「ンで、どっか行きたいトコある?」
「行きたい、とこ…?」
「今日は蛍が行きたいトコ連れてこうと思って」



さりげなく手を握られ、驚くよりも先に歩き出した今牛くんの“今日は”という言葉に気づかず。
今日は暑いな、と火照った顔を手で仰いだ。


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