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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●






冷や汗が止まらない。
足がガクガクする。
ショルダーバッグのベルトを握る手にも心做しか力が入らない。

…決して、炎天下のせいで体調が悪いのではなく、着いてしまったからだ。
待ち合わせ場所に。

遅れない程度にゆっくり歩いたつもりが…約束の時間まであと5分もある。
いや、5分前行動は大事だけれども。
今はそうじゃない…!
1分前でも良かったのに…!

ぴたりと足を止めて向けた目線の先には、もう既に今牛くんの姿があって。
遅刻しないタイプの男の人だ…!と謎に感動してしまった。

携帯をいじりながら、ポケットに片手を突っ込んでつまらなそうに立っている今牛くん。
ジーパンと、白いTシャツにジレベストというラフな格好だけれど、色素の薄い髪と整った顔のこともあってかなり目立っている。

とても近寄り難い。
今牛くんがただ目立っているだけなら、何とか勇気を出して近づけただろうけど…

三人の、キラキラした綺麗な女の子たちに今牛くんが囲まれているから、近づけない。



「ど、どうしよう…」



腕時計を確認すれば、待ち合わせ時間になっている。
なんなら確認した瞬間に1分過ぎたことを示された。
あれ、さっきまで5分前だったのにおかしいな、時計壊れたかな。
直しに帰ってもいいかな???

今牛くんの周りにいる子たちはきゃぴきゃぴと彼に話しかけている。
それほど離れた距離にいるわけじゃないけど、私がいることに気づいていない様子だし…綺麗な女の子たちに囲まれている今牛くんに話しかける勇気も、私にはない。
あの子たちが今牛くんの知り合いや友達なら、なおさら輪には入れ、ない、し…

帰っ、ちゃお、っかな、…と思った瞬間だった。



「ひっ!?」



何となく握りしめてしまっていた携帯が突然振動しだして。
そういえばマナーモードにしてたっけと、若干慌てながらろくに相手も見ずに通話ボタンを押した。



「はいッもしもし!」
《……みっけ》
「え?」



み、っけ?みっけって何?

思わず携帯を耳から離す。
通話中の相手を確認してみると、そこには“今牛若狭くん”と表示されていて。
咄嗟に何も思い浮かばず口を半開きにしたまま彼がいた方に目を向ければ…



《2分遅刻》



ばち、と目が合う。
口角が少し上がっている彼の口の動きが、電話から聞こえた声と重なった。


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