第13章 パステルピンク《今牛若狭》●
数秒後、満足するように小さく頷いた今牛くん。
覚悟を決めてゴクリと生唾を飲みこむ私とは真逆に、静まり返ったその場に響くように声を弾ませて、爆弾を落とした。
「デートして」
「い、行かない、行きたくない」
「蛍…」
あれから早くも1週間。
片腕で頬杖をつきながらあの日、上目遣いで私の目を見てそう言った今牛くんにそのあと強制的に連絡先を交換させられ、予定のあう日と待ち合わせ時間をメールでやり取りして。
「行きたくないよぉ真ちゃあん!!」
ついに、約束の日が来てしまったのだ。
待ち合わせ時間まであと1時間を切っていて、すでに準備は万全に整っている。
…別に、決して今日この日を楽しみにしてたわけじゃない。
でも待ち合わせ時間に遅れるのが怖くて、友達と遊びにいく時より滞りなく準備ができてしまっただけ。
何度も何度も、洋服を選ぶ目を瞑り…メイクする手を止めた。
けど動きを止める度に、あの日の今牛くんの言葉が脳裏をよぎるから。
『アンタにもできることだし、全然変なことじゃないデショ』
『いや、だからってそん、…で、デートって、』
『ハ、なに?まさかとは思うけど、自分に拒否権あると思ってンの?』
…もう、ほんとうに泣く泣く準備を進めるしかなかった。
今牛くんとの待ち合わせ場所までは、徒歩で20分。
今日の天気は快晴で、日差しが強く蒸し暑いせいで熱中症になるといけないから、真ちゃんはバイクで送ると言ってくれたけど…それだと5分ほどしか心の準備をする時間がないということで丁重にお断りした。
「真ちゃんたすけて、」
「わ、割と楽しいかもしんねぇじゃん?」
「殺されるかもしれないのに?わた、私、彼を殴って大事な永久歯を抜歯しちゃったんだよ!?」
「いやそれは…もう過ぎたことだし、デートすることで許してくれるなら安いもんだろ?…それに、ワカは女の子に乱暴なことしねぇはずだからそこは安心し…」
「真ちゃんきらい!!」
「いや何で!?」
刻一刻と迫る、待ち合わせの時間。
真ちゃんと意味のない言い争いをしていたせいか、あっという間に出発時間がやって来てしまって。
泣いている真ちゃん、眠そうな目をこする万ちゃんの手を引くエマの三人に手を振って、半分泣きながら家を飛び出した。