第13章 パステルピンク《今牛若狭》●
「……ぇ、ひっ…ご、ごめんなさいっ!!」
事態は急展開。
怒りで真っ赤になっていたはずの私の顔から一気に血の気が引く。
どうしようとか、考えるより先に今牛くんに平謝りするしかないと思って、勢いよく彼に向かって頭を下げた。
…一応、キュロットスカートがめくれないようにお尻をおさえるのは忘れていない。
「…アンタ、名前なんだっけ」
真ちゃんのお友達と言えど、彼は不良であって、つまり……死?
ああ、そう、今日は私の命日かもしれない。
目を細め、まるで獲物を狩る直前のゾッとするような不敵な笑みで、私をまっすぐ見つめる今牛くん。
彼は座っていて、私は立っているから目線は私の方が上のはずなのに、上から睨まれているような威圧感…そう、蛇に睨まれた蛙の状態。
むだに分泌される唾液をゴクリと飲みこみ、なんとか声を絞りだす。
「っ…蛍、です」
「フーン。どうしてくれンの、コレ」
「ワカ、オレからも謝るから蛍は、」
「真ちゃんはちょい黙ってて」
彼も真ちゃんって呼ぶんだ…なんて場違いなことを考えて現実逃避するけど、この状況が変わることはない。
かの有名なスライディング土下座するべき…?
「あの、本当にごめんなさい、お、お詫びに何でもします、から、」
「…へぇ〜」
「…あ、」
何も考えずに口走ってしまったことをひどく後悔する。
不敵な笑みを浮かべていた今牛くんは首を傾げ、今度は楽しそうに頬を緩めている。
「私にできる範囲で変なことじゃないならって意味で!」と慌てて弁明し、おかしな要求をされないように自分を保護した。
そうじゃなければ、何をやらされるかわからないし…!
顎に手を当てて唸りながらも、大して考えていなさそうな顔で考える素振りをする今牛くん。
絶対わざとだ。
未だ楽しそうに口元が歪んでいるし、あざとさが滲み出ているから、私を困らせるためにそんな仕草をしているに違いない。
自分の顔の良さをわかっているらしい。
確かにカッコイイ。美人の部類のイケメンさんだ。
でも性格は良いとはちょっとあの、言えない。
何を言われるんだろう。
脱げ、とか言われたらまた殴ってしまいそう。
ジュース買ってこい、とかだったら全然何本でも買ってくるのに。
怖くてたまらない…
高校受験の時より緊張してる気がする。