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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●





真ちゃんはただのはとこであり、それ以上でもそれ以下でもない。
優しくてカッコイイとこは好きだけど、身内でそういうのは…ちょっと。



「蛍はオレの親戚。はとこ。訳あってウチに住んでんだ」



真ちゃんの紹介で、荒師慶三くんと今牛若狭くんに改めて挨拶をする。
荒師くんは見た目に反して人当たりが良く、「よろしくな」と言ってくれた。
でも今牛くんは、さっきから私を見ているだけでずっと無言。
色素の薄いふわふわした髪と、あまりにも整ったお人形さんみたいな顔に緊張を隠しながらもよろしくお願いします、と一応は言ったものの…ゆるりと瞬きするだけで返事をしてくれない。

もしかしたら、女が苦手か…警戒心が強い人なのかな?と勝手に想像して心に刻んだ。
真ちゃんのお友達だし、失礼があってはいけない、と。



…でも、人というのは本当に見かけによらないもので。
事件は起きてしまう。



少しだけ会話を楽しんだ後に、用も済んだし帰ろうと自転車のペダルに足をかけた、直後だった。

ふわり。
風でキュロットスカートがほんの少しめくれたのが、いけなかったのかもしれない。



「…ふーん、パステルピンクね」
「……え?」



今まで一言も喋らなかった今牛くんが少しだけ口角を上げ、どこか楽しそうな顔で静かにそう呟いたのだ。
比較的小さな声だったのに、それは妙に響いた気がして。
私に続いて真ちゃん、明司くん、荒師くんは、今牛くんに目を向ける。

周りでは変わらず騒がしいけど、五人の間には静寂がおとずれ、ついでに私の思考が停止する。
何故なら、私は今日パステルピンク色の服は着ていない。
だからと言って、彼が色を間違えたわけでも、私がパステルピンクに似たような色の服を着ているわけでもない。
…でも、『パステルピンク』…今の状況において本来、私しか知らないはずのその色にはひどく心当たりがあるから。



「…ぃ、」



誰も知らないはずなのに。
否、見えないはずなのに。
私の斜め前に座っていた彼には、見えてしまったんだ。



「可愛い色のパンツ履いてんね」
「ッひ、」



イ゙ヤぁ゙────ッ!!!



断末魔に近い叫び声が響きわたり、同時に響いた鈍い打撃音にその場全体が一瞬で静寂に包まれた。


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