第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
《マイキー、ぅ、怖いよぉ…グスッ、蛍どうなっちゃうの…?》
「…オレが必ず助ける。お前は家から出るな、絶対だぞ!?」
《ヒック、ぅ、わかった…マイキーお願い、蛍を…っ》
「わかってる」
蛍を呼ぶエマの鼻が詰まった声を最後に、オレは電話を切る。
直後、ケンチンがオレの肩を掴んで揺らした。
「おいマイキー!エマに何かあったのか!?」
「…いや、エマは家にいる」
「は?じゃあ…っ、まさか、」
おかしいとは思っていた。
蛍が泣きながら、オレを振ってンのに辛そうに謝って。
振った日の昼まではいつも通りで、「大好きだよ」って幸せそうに笑ってたのに、急に好きな人ができた、なんて。
着信拒否するくらいオレの声を聞きたくないはずなのに、エマから携帯を奪って話した時、すぐ通話を切らなかった。
好きじゃない。そうは言っても、決して“嫌い”とは言わなかった。
そして、決定づけるような違和感。
それは、場地と声をあげて笑った、あの日のこと。
──…蛍に振られた次の日から、あの女たちが来ている。
「マイキー、まさか蛍…おいどこ行くんだよ」
「……」
脇目も振らず、まっすぐ女たちのいる階段の下へ歩を進める。
きっと、否、絶対笑っていない真顔のオレの殺気から逃げるように、下っ端のヤツらは勝手に道を開けていく。
おかげで誰にもぶつかることなく、女たちのすぐそばまで一度も止まることなくたどり着いた。
「あ!佐野くぅん!」
「やっと来てくれたぁ!」
オレが来たことに気づいた女たちが、キャッキャと嬉しそうに顔を綻ばせて笑う。
でもそれに何も返すことなく、オレはリーダーらしい女が座って背中を預けている柵に、女の顔すれすれの真横に片足の靴底を叩きつけた。
「ッきゃあ!!」
足を下ろすことなく、そのままの体勢で女に上から覆い被さるように腰を曲げ、見下す。
おそるおそる顔を上げた女は、今の一瞬の出来事で涙をボロボロとこぼし、派手なメイクが崩れだした。
「…ファンクラブとかくっだらねぇ」
思ったよりも低く出た声に、オレに見下されてる女だけでなく、他の奴らも小さく悲鳴をあげて息を飲んだ。
「言え。蛍はどこだ」