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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》




自惚れみたいだけど、まるで、…好きな女の子に向けるような熱い視線。
「ね、まだ可愛い?」と低く、わざとらしく掠れた声で私の耳に口を寄せて…頬がくっつきそう。
耳に触れる吐息が熱い。

今までとは比べ物にならないくらい、心臓が速く脈打って…きっと、万次郎には聞こえてしまっているはず。
でもそれは、万次郎のせいであって、私は何も悪くないし、そんな…答えに困るようなことを聞かれても、なんて答えたらいいのか…



「なーんてな!」
「…え」



真剣に悩んでいたのに。
バッと勢いよく体を離されて、見慣れた人好きのする満面の笑みでそう言われた。
思わず口を半開きにして眉を寄せてしまう。



「言ってみただけ!でもさぁ、こんな格好じゃもう可愛いとは程遠いだろ?」
「…う、ん…?」



そう、だけど…と口篭れば、万次郎は口元の笑みは崩さずに、私の手首を掴んでいたはずの手で、恋人にするように指を絡めてきた。



「それに」
「…?」
「…オレ、本気だから」
「え、」



その手をくいっと軽く引き寄せられて、離れたはずの距離が、また近づく。
肩を揺らして驚いたけど、万次郎は私の存在を確かめるように、空いている手で私の額にかかる髪を寄せて…そっと、唇を落とした。

熱くて…ふに、と柔らかい感触。
さらに顔が熱くなってしまう。



「ぇ、ま、」
「もう可愛いって言わせねぇからな〜」
「ど、どういうこと万次郎、教えて、」
「やぁだ、教えない。察して?」



満足気に私を覗き込む万次郎は、家の玄関先まで私の手を引いてすぐ、何やらズボンのポケットを探り出した。
出てきたのは、万次郎の携帯電話。



「蛍ちゃんの連絡先教えてくんね?帰り遅いとき、オレ迎え行くから」
「え、そ…でも、」
「遠慮すんなって」
「…め、迷惑じゃない…?」
「蛍ちゃんだからいーの。帰り暗いと、まじで危ねぇし。オレも心配だし」
「…あり、がと…」
「ん」



誘われるまま連絡先を交換した後、不意打ちでまた抱き寄せられて…今度は目元にキスをされた。
再度びっくりして「もう!」と怒るけど、じゃーな!と言って手を振りながら去っていく万次郎にそれ以上何も言えなくて…少し頬を膨らませながら手を振り返した。



5年ぶりに会った幼馴染は、とんでもないエロガキになっていたらしい。

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