第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》
「万次郎ももう中学生だし、手は好きな子と繋いだ方がいいよ」
何気なく言った言葉だけど。
本当の弟のように可愛がっていた万次郎が、女の子と手を繋いで歩く歳になったんだなと思うと…少しだけ、寂しい。
まあ、私もお酒を飲める歳になったし。
万次郎も、私の知らない友達と一緒に今を楽しんでいる。
…もう、住む世界が違うんだなぁ。
私は大学を卒業して、就職する。
万次郎は、…暴走族っていう、ちょっと世間には認められないような場所にいるけど、今以上に道を踏み外さないことを願う。
「でも、ほんとにびっくりしちゃった。最初、万次郎に見えなかったもん。背、おっきくなったね」
あと5歩。4歩。
どんどん私の家に近づく中、隣を静かに歩きながら一言も喋らない万次郎。
どうしたんだろう、と隣に目を向けた…瞬間。
「蛍」
「え、!?」
手首を引っ張られ、流されるままに腰を抱き寄せられた。
ふわりと香る、幼かった頃とは違う万次郎のにおい。
勢いのままぶつかりそうになって思わず手を添えた万次郎の胸板は、子供っぽくなくて…筋肉質で硬い。
そういえば、さっきバイクに乗って万次郎のお腹に手を回した時も、同じ感じだった。
トク、トク、少しだけ早く脈打つ鼓動が、自分の脳内に響く。
手を添えている万次郎の胸からも、少しだけ振動が伝わってきていて…万次郎もドキドキしてるのかな、って。
突然ギュ、と腰に回されている腕が締まったことで、ようやく抱きしめられていることに気づいた。
誰かに見られたら気まずいし、離れようと思って少しだけもがくけど…ビクともしない。
じんわりと万次郎の体の熱が私にも移ってきて、同時に顔も熱くなる。
おそるおそる見上げれば、5年前は私の胸に埋まっていた顔が、少し上にあって。
真剣に、熱っぽい目で私を見つめる目は……ううん、万次郎のこんな目、見たことない。
…あれ?
万次郎、いつの間にそんな…
まるで、大人みたいな男の子になっちゃったんだろう?
「…ま、まんじろ、」
「蛍、あのさ」
名前がちゃん付けじゃないのは、気のせいじゃなかったみたい。
ドクン、と再度呼ばれた名前に心臓が高鳴る。
掠れた声が、妙に色っぽくて。
見つめあったまま、瞬きすら、できない。
「オレってさ、まだ “可愛い” ?」