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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》




黄から赤に変わった信号で、バイクはゆっくりとスピードを落として停止した。
小休憩…と思い、少しだけ万次郎の背中から離れる。さすがにずっとくっついてるのは何だか恥ずかしいから。

景色を見るより、目に止まった万次郎の背中の文字がなんとなく気になり、ス…と指先でなぞる。
袖の刺繍と同じ、金色の文字。
うなじの下には、初代。
背筋をなぞるように縦に刺繍されてるのは…



「とうきょう、…まんじ?」
「ん、東京卍會」
「暴走族の名前?」
「そ、中1の時つくった。…てか擽ったいから今はやめてくんね?」
「あ、ごめん」



まんじかい、って、万次郎みたいな名前だね。

クスクス笑って言えば、何故か耳を赤くする万次郎。
もしかして顔も?と思ったけど、まるで隠すように前を向いたから見えなくなってしまった。

…照れてる、のかな。
それとも、恥ずかしがってる?





数分後、万次郎の家の前でバイクは停まった。
2軒奥にある私の家まで行くと万次郎が戻ってこないといけないし、ここからは歩いて行こう。そう思ってゆっくりバイクから降りた。

ほんの数分間、バイクに乗って感じた風はとても心地よかった。
何気に安全運転だったし、怖いと思ったのはほんとに最初だけ。
バイクに乗せてもらう機会ってそうそうあるもんじゃないし、いい経験が出来て良かったかも。



「送ってくれてありがとう、久々に会えて嬉しかった」
「ん、オレも」



よく遊んでいた仲だから、これでさよならするのは寂しい気がしたけど…もう中学生が出歩く時間じゃないし、私も家族が心配しているかもしれない。

路上脇にバイクを停めたままなぜか鍵を抜く万次郎に、バイバイと手を振って歩きだそうとして…ふと隣に万次郎が並んだ。



「万次郎?」
「家の前まで送ってく」
「え?いいよ、大丈夫だよ!すぐそこだし、」
「もう真っ暗だし、どこにどんな奴がいるかわかんねぇじゃん。送らせて」
「…そ、そう?じゃあ、えと、お願いします」
「うん」



私の家はもうここから見えてるのに、わざわざ送ってくれるらしい。

昔みたいに手ぇ繋ぐ?と言って手を差し出してくる万次郎に、戸惑いながらも断った。
もう万次郎は子供じゃないし、この時間帯は車通りもないし。

恋人でもないのに、手を繋ぐ必要なんてないでしょ?


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