第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》
よく遊んでた頃、目がクリクリしてて懐いてくる万次郎が可愛くて可愛くて、会う度に『万次郎かわいいね』と言っていた。
返事は必ず『可愛いって言うな!』だったけど…顔は赤いものだから、照れ隠ししてるだけなんだと気づいて、なおさら可愛いと思っていた。
素直じゃないところとか、ちょっと生意気なところとか。
たまに佐野家にお邪魔して、一緒にお昼寝したりおやつを食べたり…休みの日はいつも一緒にいた気がする。
「ふーん、それで徒歩なんだ」
「うん。次のバス待つよりは早いかなって」
「…オレ帰るとこだし、送ってく」
「えッ!?そん、そそんな悪いよ、総長さんなんでしょ?先に帰っちゃっていいの?」
「総長だからいーの。もう暗いし、危ねぇじゃん。一緒に帰ろうよ」
な?と首を傾げて覗き込んでくる目は、あの頃と変わっていない。
…はずなのに、顔が大人っぽくなったせいか妙に説得力があって。
断ろうにも断れず、気づけば頷いてしまっていた。
「後ろ乗って」
「…私、バイク初めてなんだけど…」
「あー、跨って乗んの。無理そう?」
「いや、今日はスカートじゃないし…たぶん、大丈夫」
スカートだったら絶対乗って帰れなかったけど、幸いにも今日はスキニーパンツ。
捲れるものは着ていない。
言われた通り、ぎこちない動きでバイクの後ろの方にゆっくり乗ったけど、機体が揺れて一瞬怯える。
でも、万次郎が手を握って支えてくれてたから、転ばずに済んだ。
お礼を言えば、にっこりと人好きのする笑顔を向けられて…不覚にもキュン、とトキめいてしまった。
やめなさい私、中学生相手よ…!?
「あ、やべ、今日ヘルメット持ってきて無ぇ…ごめん、サツに見つかんないように帰るわ」
「え、怖っ、うそ…!?」
「だぁいじょうぶだって!ほら、走るから腰、手ぇ回して」
「え無理無理、緊張するッ」
「掴まんないと逆に落ちるぞ〜」
「はい掴みます!掴みました!!」
「ふはっ、めっちゃビビってんじゃんウケる!」
朗らかに笑う万次郎の声が響き、数々の視線を感じながら「いくぞー」と言われ動き出したバイク。
ひぃ!と怖くて仕方がなくて、ギュッと万次郎の腰に抱きついた。
小さい頃でも、こんなに密着したことあまりなかったのに。
バイクの後ろに乗せてもらうなんて、まるで…
いや、考えすぎ。