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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》




その声で目の前の男の人たちが振り向いたと同時に、隙間から声の主の姿が見えて。
「総長!」と声を張りあげて腰から頭を下げる男の人たちには目もくれず、探るようにただ真っ直ぐ私を見つめている。

慌てて目を逸らした先には、黒い服の袖部分。
金色の刺繍で仕上がっている文字は、初代総長。

…総長!??
ってこの人たち今叫んでたよね!
待って、私の名前…何で?
私知らないよこんな人!!



「え、う、」
「あれ、覚えてねぇかな…オレだよ、万次郎!」
「…へ?」




『可愛いって言うな!』

『可愛いのは蛍ちゃんだろ?』




思い浮かんだのは、ここに来てさっき一瞬だけ脳裏に過ぎった幼馴染の男の子。

まん、じろ…まんじろう。
…万次郎?



「え、うそ…ま、まんじろう…?」
「あは、やっぱ蛍ちゃんじゃん!やっほー」



佐野万次郎。
私の家の2軒隣に住む、佐野万作さんのお孫さん。

最後に会ったのは、5年前の夏。
私が高校受験で忙しくなり始めた頃から遊ばなくなって、それっきり会うことがなかった5歳年下の男の子。

明るい…金色っぽい髪。
前髪を結い上げていて、幼い頃とは違って少しだけ髪が長い。
確かに、どことなく面影があるけど…私の身長を少し追い越しているし、服装もラフな格好じゃないし…気づかないのは当然だ。



「そ、総長のお知り合いですか!?」
「すす、すみません、俺ら…ッ」
「ン、いーから。向こう行っとけ」
「「はいッ!!!」」



私を囲んで睨みつけていた威厳はどこへやら。
男の人たちは掠れた悲鳴をあげつつ、慌てながら走り去ってどこかへ消えてしまった。
逆に拍子抜けしてしまう。
そんなに総長が怖いか。



「久しぶりだな〜。いつぶりだっけ?」
「え?えと、私が中3の時だから、5年ぶり?」
「あーそんな前だっけ。まいいや、今帰り?…にしては遅くねぇ?」
「うん、その…大学のサークルでちょっと、遅くなって。バス逃しちゃったの」
「そっか、蛍ちゃん頭いいから大学行ってんだな!すげぇ〜」
「や、そんな、ふふ、えへへ…」



昔から思ってたけど、万次郎って…

コミュ力やばいな。

私なら、例え幼馴染だろうと友人だろうと、5年ぶりに会う相手にこんな積極的に話しかけられないよ!
それになんか…オーラが眩しい!!


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