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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第12章 聞いてないけど?《佐野万次郎》





その日はたまたま大学のサークルでの活動で帰宅時間がずれて、最寄り駅を出たあとに乗るはずのバスに遅れてしまった日だった。

次のバスまで1時間。
でも徒歩だと、30分ちょっとで家に帰れる。
それならたまには徒歩でもいいかな、と思って、ため息を吐きつつも家に向かって歩き出した。

運動は大事。
そう自分に言い聞かせながら、普段はバスに乗っているせいでゆっくり眺めることのできない街並みを、不自然にならないよう気を遣いながら見て歩いた。


歩き始めて数分たてば、すぐ住宅街。
小さい頃はよくこの辺りで遊んだなぁ、と過去の記憶を掘り出し、そういえば近くに神社があったような気がして。
せっかくだし、ちょっと寄ってみようかな。
何なら参拝して帰ろう。

最後にあの神社へ訪れたのは、たぶん5年くらい前。
大学で充実した生活をホクホクとおくっていた私は、その神社が最近どうなっているのかを知らない。
だから、神社に寄るという選択は間違っていたのだと気づいたのは、正面の駐車場に足を踏み入れてからだった。






「ヒッ」



武蔵神社。
幼馴染の男の子と女の子と、よく遊びに来ていた場所。
あの時は平穏だった。
常連の参拝客がちらほら訪れ、都心ということもあって観光客もたまに見かけていた神社。

…それが今、暴走族の溜まり場になってるなんて知らなかったんだけど!?

もう完全に日は暮れ、空には星…は見えないけど月が輝いている時間。
普段、というか、記憶にある神社は静かだったはずなのに騒音にまみれ、私の目の前には数えきれないほどのバイクと、黒装束の男の人たちがいて。
ちらほら女の子も見えるけど…ちょっとギャルっぽい子が多い。

武蔵神社、いつの間にこんなことになってたの?
時代の移り変わりってすごいな…



「あン?誰だアンタ」
「え?」
「おい、ここがどこかわかって近づいてんのか?あ゙!?」
「え、武蔵じん…いや、す、すいませんッ」



木陰に隠れることもせず突っ立っていた私は当然、そばに立っていた数人にすぐ囲まれてしまった。
みんな背が高いし、体つきも男なだけあって大きい。
上から睨まれるものだから、恐怖で足腰が震えるし…正直、泣きそう。あれ、目眩もするぞ?



「蛍ちゃん?」



オイオイコラコラ迫られていた私の耳に、落ち着いた声が聞こえてきた。

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