第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
──蛍に別れ話を突きつけられてから、1週間が経った。
正直、限界が過ぎすぎてUターンを繰り返して往復している。
蛍不足だ。
朝から学校に行って眠らずに授業を受けるくらい(ただしノートはとっていない)、脳が異常をきたしている。
学校なんて、給食食う以外の理由で行くなんてことずっと無かったのに。
「もー無理…死んだ方がマシじゃね?コレ…」
「まだ着拒されてんのかよ」
「毎日かけてるけど繋がんねー」
「いや怖すぎだろ」
「ケンチンだってエマに着拒されたら人生終わるだろ」
集会を始める前の時間。
今日は買い物があるから、と言ってここにいないエマのことでケンチンをからかう。
誰かと喋ってないと、どっかに喧嘩を吹っかけにいきそうな自分が怖いから。
「はっ。東京湾にゼファーごと突っ込んで死にに行くわ」
「あーケンチンならやりそう」
ケンチンの言葉に、オレもバブごと突っ込もうかな…と考えた、その時だった。
オレの携帯の着信音が鳴りひびき、ポケットに手を突っ込む。
期待はしないようにして相手を確認すると、エマからだった。
何の用だろう、夕飯決まらないとか?と呑気に通話ボタンを押した、2秒前のオレを呪ってしまいたい。
「ん、もしも…」
《ま、マイキー…グスッ》
「エマ?どうした!?」
オレの大きな声が響き、そばにいたケンチンと近くにいた仲間たちが、一斉にオレへ目を向けた。
《ヒック、いま蛍から、ヒッ、電話、きて…》
「は…?」
《た、助けて、って…!》
嫌な、予感がした。
《グスッ、ねぇマイキー、蛍どうしたの、何があったのぉ…ッ?》
「……ッ」
背筋が、凍る。
一瞬、何も聞こえなくなった。
《ねぇ、どうしよ…う、わあああんっ》
「っ、落ち着けエマ、…どこにいる?」
《う、ウチは家だけど…っ、蛍の居場所わかんないよぉ…電話の向こうから、お、男の人の声がいっぱい聞こえて、きて…》
嗚呼、やめろ。
誰でもいい、嘘だと言ってくれ。
夢なら、これがただの悪夢なら、早く、今すぐ覚めてくれ。