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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ







蕪谷コウキとの出会いは、年少に入った時だ。
弟の竜胆と部屋を離された代わりに、たまたま同じ部屋になった同い年のコウキは、どちらかと言えば美形の部類。
スポーツ少年のような、活発そうな笑い方をする奴だった。

別に、同室の奴と仲良しする気は微塵もなかったのに。
コウキは、いつもツンとそっぽを向いていたオレを気にする様子もなく話しかけてきた。

諦めずオレとの距離を縮めようとするコウキに対して呆れを通り越し、いつの間にか相槌をうつようになっていた。



コウキは自分の罪状を、カタギの男を誤って銃で撃ち殺してしまったと告げた。
本当は、出身地である中部地方の年少に入るはずが、組長である父親に、カタギの人間を殺めてしまったことに対する処罰として、中部地方の年少よりもデカいこっちに送られたらしい。

カタギ。組長である父親。
それを聞いて、つまりコウキは一般人じゃなく、俗に言うヤクザの息子なのかと理解した。



『蘭さぁ、弟いるんだって?』
『ウン』
『おれも4つ下の妹いるんだけどさ。可愛いよな、弟とか妹って』



部屋に布団を敷きながら、ある日コウキは妹の存在をオレに教えた。
たまに届く手紙は、親や友人からのモノより妹からの手紙の方が何よりも嬉しいらしく。
デレデレと顔を赤くするコウキに、「シスコンじゃん」と笑った記憶がある。

まァ、人のこと言えねぇけど。
竜胆かわいいし。



『家に戻ったら、会えなかった分いっぱい遊んでやるんだ。アイツおれのこと大好きだからさぁ、絶対寂しがってる』
『ふ、そのうち嫌われたりしてな』
『なっ、そんなこと言うなよ!』




















妹のことを語っていたアイツと年少で別れ、関係はそれきりのはずだったのに。



「…蛍、兄ちゃんのこと好き?」
「はい、大好きですっ」



…だってよ。
良かったなぁ、コウキ。
10年以上経った今でも、嫌われてねぇじゃん。

素直で、愛嬌のある妹に好かれて幸せだな。
お前あの時、隠してただろうけど…妹と離されてどんだけ辛かったんだろうな。
でも今度は、妹が拉致されたおかげでまた離されて…お前はまだ行方すらわかってない。



ハッ。
まるで、おとぎ話みてぇに可哀想な兄妹だなァ。


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