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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ





なあ、コウキ。
お前が妹のこと大切なのはわかってる。
無理やり、未だにわかってねぇ犯人に拉致されて、あの頃とは違う意味で寂しい思いしてんだろうなって、誰に言われなくてもわかるよ。

…でもさぁ、こっちにも事情があンだよなぁ。
生きたまま返せるかどうかも、まだわかんねぇし?



「なぁ蛍ぅ」
「はい?」
「オレと結婚する?」



あ然とする蛍に、にっこりと笑顔を貼り付けて言ってみる。

この笑顔で落ちない女はいなかった。
冗談半分、本気半分のお試しってやつだけど。
これで頬を染めて目の色が変われば、めちゃくちゃ面白いじゃん。

まァ、蛍ちゃんイイ子だし?
コウキには悪いけど、真剣に考えてやってもいいかな、なんて。

…そう思ってたのに。



「あの、それってハニートラップ、みたいなものですか?」
「…は」
「春千夜さんが言ってたんです。えと…“灰谷の弟以上に兄の言うことは信じるな、疑え”って…」



予想を上回る答えに、今度はオレがあ然としてしまう。
あのクソ野郎…苗字じゃなく名前で呼ばせてる挙句、いらねぇ入れ知恵しやがって。

蛍を挟んで反対側に座る竜胆は、腹を抱えて身をよじったせいでソファーから落ち、床に蹲っている。
兄ちゃん傷つくぞ。



「ぃひっ、ぅ、やべぇ腹ッ、むり、」
「…あー、蛍チャン?人を簡単に信じねぇことはいいことだけど、あのヤク中も信じるなよ?」
「え?…もしかして、春千夜さんも悪い人なんですか?」
「ん゙ッ」
「あは、大人はみ〜んな悪い人だから♡」



この女は…蛍は、オレに落とされる女じゃない。
…まだ確信はねぇけど、もしかしたら…やべ、女ってほんとに怖ぇのな。



「あの、すみません…結婚は無理です、お付き合いすらしていないのに…」
「いーよいーよ、今の忘れて」
「お、お友達からで…」
「ウン、お友達からなァ〜」



…なんだろうな。逆に気合い入るじゃんコレ。

コウキ。
まさかお前の妹が、オレに落ちない女第一号になるとは思わなかった。

悪ぃけどまだ当分、返せそうにねぇワ。





灰谷蘭side…END

To be continued...
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