第11章 梵天の華Ⅲ
兄に会えたあの幸せが、夢の中だけだったなんて…
ショックが酷い。
「お、お願いします、起きて…!」
けど、今はそれよりも延命が大事…と、目の前の胸板を必死に押すけど、ビクともしない。
頭がだんだん冴えてきたおかげで、さらに苦しく感じる。
大蛇に締め付けられて亡くなった人の気持ちが、今ならわかる気がする。
どうしよう。
私、このまま死ぬのかな…
涙が滲みはじめ、死を覚悟したその時だった。
「んん…」
「ヒッ」
耳元で、後ろから吐息を吹きかけられ…ゾワッと鳥肌が全身を覆う。
小さく悲鳴をあげて硬直すれば、スリスリと首筋に擦り寄ってきて…くすぐったい。
バクバクと心臓が大きく脈打ち、起きたらしい後ろの人に聞こえてしまいそう。
「…ん、あれ、蛍チャン起きた…?」
「〜っは、」
「りぃんど〜、起きろぉ」
なぜ私の名前を…と聞く間もなく、すこしだけ緩んだ拘束にあわてて肺を膨らませた。
リンドウ、と呼ばれた目の前にいる人の脇腹を指先で突いた彼は、寝起きのせいか声が掠れていて。
変わらず耳元に吹きかかる吐息に、尚もくすぐったくなる。
それに…妙に色っぽい。
「んぐッ……ぅ、は…?」
全身をビクッと揺らしながら、突かれた脇腹をおさえたリンドウさんは、眉をしかめながらゆっくりと目を覚ました。
「ん゙〜…にぃちゃんおはよ…」
「おはよ。蛍チャンもおはよ♡」
「ヒッ…!?」
「あ゙?」
私の背中に回っていた手で目をこするリンドウさんと後ろの人が挨拶を交わした瞬間、耳に直接チュッと音が響き、同時に温かく柔らかい感触がして…思わず先ほどのリンドウさんと同じように全身をビクつかせる。
すると、リンドウさんに勢いよく睨まれてしまって…無意識に目を瞑ってしまった。
直後。
グゥ〜…
「……ぶっ」
「…誰の腹?」
「ぅ…すみません、私、です…」
朝食を食べ損ねた私のお腹が、元気よく鳴いた音。
とっさに起き上がってお腹を抱えながら笑う背後にいた人と、笑いをこらえて顔を背けた拍子にベッドから転げ落ちそうになっているリンドウさん。
一気に賑やかになった寝室に、私のお腹は静かにクルクルと鳴り続けていて…ゆっくりと体を起こす。
…状況を整理するのは後にして、ご飯たべようかな。