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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ





お兄ちゃんが来てくれた。
梵天の誰かが、会うことを許してくれたのかもしれない。
だからここにいるんだ、と。

抱きついたその胸元に額を擦りつけて、会えなかった2年分の思いをたくさん伝えた。



『私がんばったよ、耐えたよ』

『つらかった』

『苦しかった』

『会いたかった』

『忘れた日は無かった』

『もう会えないかと思った』

『お兄ちゃん、』



お兄ちゃん、お兄ちゃん。

たくさん呼んで、泣いて…いつの間にか眠ってしまったけれど。
涙を拭ってくれた、頭を抱き寄せてくれた手があまりにも優しくて…。
それが嬉しくて、ひどく幸せな夢を見た。



私が屋敷の庭に咲かせたたくさんのお花たちを見て、綺麗だな、すごいな、と褒めてくれたいつかの日の兄が。
あの日と同じ、まるで太陽を見上げた時のように眩しそうな笑顔で、私を見つめていたの。


























フ、と意識が浮上して、見ていた幸せな夢が雪のように溶けて消えてしまった。

微睡みの中、なんだか、とても…体が窮屈というか、締め付けられているような苦しさはあるけど…
香りがそばにあることは変わっていないから。
幸せな時間は、まだ終わって…



「……ん…ぅ゙…?」



………あれ?
本当に、苦しい…息が、しづらい…?



「…え、!?ひっ」



恐る恐る目を開けた瞬間、きゃあ!と叫びそうになって…慌てて動かせる手で口を抑えた。

だって、目の前に知らない人がいるんだもの…
春千夜さんじゃない。あの人はこんなことしないし…
いったい、彼は誰?私…あれ、もしかして挟まれてる?後ろにも誰かいるような…
だから動けないの?そのせいでこんなに苦しいの?



「ぇ、え?あの、」



起きてほしい。
そして解放してほしい。
身動ぎできない…!



「お、起きて、ください…っ」



静かに寝息を立てている見知らぬ人。
でもどこか見覚えのある二人から解放されたくてもがくけど…
腰から腹部、背中、頭を包み込むように抱き締められている腕と。
私の両足に、まるで蔓のように絡む長い二人の足のせいで、私の体は全く動かない。

唯一動かせるのは、片腕だけ。

そして、意識がしっかりしたことで衝撃の事実が判明してしまった。



兄だと思っていた香りの人が…兄ではない、と。



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