第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
「おいマイキー」
「…ん、よぉ、どした場地」
武蔵神社に着いてバブのエンジンを切った途端、少し離れた場所にいたはずの場地がしかめっ面で近寄ってきた。
後ろに乗っているエマのヘルメットを取ってやって、ケンチンの元へ走っていくエマを見届けてから、場地に向き直る。
「あいつら何、誰、すげぇうるせーンだけど」
鬱陶しそうに場地が親指で指したのは、神社の階段の下にたむろする5、6人の女の集団。
なんかいつもより頭数多いなーと思ったら、見たこともない、少し派手な格好をした女たちがオレと場地のいるこちらを見ながら「佐野くぅ〜ん!!」と叫んで手を振っている。
「…知らねー」
「いや知らねーわけねぇだろ、お前の名前呼んでんじゃん」
「オレ蛍以外の女キョーミねぇし」
「いやそうじゃなくてよ…」
「それにあんなケバいのは生理的に無理。オレのタイプは蛍だから」
「…はぁ。おい千冬ぅ」
名前呼ばれるのも不愉快、と女たちから目を逸らせば、場地は埒が明かないと思ったのだろう。場地の少し後ろに立っていた壱番隊副隊長の松野千冬を呼んだ。
「はい!なんスか場地さん!」
「ちょっと聞いてきてくれ」
「っえ、オレがですか!?」
「おう、頼んだ」
「ぅ、は、はい!」
一瞬だけ口元が引きつった千冬だけど、尊敬する場地に頼られたら断れないらしい。
走って女たちの元へ向かい、話しかけている千冬の背中を二人で見つめた。
…十秒、その場にいただろうか。
少しでもそこに居たくなかったのか、用が済んだのか、千冬は頭を掻きながらまた走って戻ってきた。
「おー、早。もう戻ってきた」
「何か言ってたか?」
「あ、はい、…えと、マイキー君のファンクラブ幹部、らしい、っス…」
「「は?」」
千冬の口から、何とも言えないような顔で放たれた言葉に、オレと場地の声は見事に被った。
数秒後、武蔵神社の駐車場には、オレと場地の笑い声が5分ほど響きわたった。
「ン゙ッふ、ヒッ、ふぁん、ふぁんくらぶ…ッ」
「あ゙ー笑った笑った!…で、どうすンだよ」
「は?知らねーよ。放っとけば?構う必要ねーじゃん」
「…まあ、集会に支障がねぇなら」
「集会に首つっこんで来たら勇者だな!」
「ハッ違いねぇ!…賭けるか?」
「えーやだ」