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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ





「ぇ、ちょ、」
「ヒック、ぅ、え〜ん…っ」
「な、なに、は!?」



オレの胸にすがりついて、しゃくりあげながら泣き続ける女。
何が何だかわけわかんなくて混乱し、両手を持て余す。



「…え、竜胆泣かした?」
「いや、オレは何も…!」



スマホを耳から離した兄貴に疑い深い目を向けられて、マジで、と弁解しようとした瞬間。
遮るように、涙声で女が小さく呟いた。



「おにぃ、ちゃん…ッ」
「「……え」」



思考が停止した。
部屋には女のすすり泣く声だけが響き、オレは何も考えられなくなって口を開けたまま胸元の女を見下ろす。

お、おにいちゃん?って言ったか?言ったよなお兄ちゃんって。
…ど、どっちかっつーとオレより兄貴の方が兄ちゃんだし、オレは弟で、兄ちゃ……あれ?



「に、兄ちゃん…」
「…え、ん?」
「……オレ、妹いたんだな…」
「…竜胆にいるなら、オレにもいるなぁ」
「い、妹、えと、2つ…じゃねぇ3つ下?オレが3歳の時に生まれた?誕生日いつだっけ、」
「まず血ぃ繋がってねぇしオレらに妹はいねぇよ、竜胆おちつけ〜?」


















ココいわく、薬物の投与を急激にやめた挙句、その薬を抜いたあとの副作用らしい。
なんで一ヶ月も経ってから?と聞けば、原因はわからないが、抗がん剤と同じで一ヶ月後に副作用がくる場合があるらしい。

…いや抗がん剤は知らねぇけど。

ココは別用があって来れないということで、錯乱していないのであれば鎮静剤はいらないし、とりあえず様子を見ることになった。

えぐえぐとオレの胸で泣いて、泣いて、たまに「お兄ちゃん」と呟いて。
疲れたのか眠ってしまった女をベッドに寝かせれば、兄貴はそっと女の頬に残る涙のあとを拭った。



「…兄貴、いるんだな」
「4つ上らしいってモッチー言ってたぜ。たぶん蕪谷組の若頭だな」



4つ上、なら兄貴と同い年。
会いたいだろう家族を想って当然だ。拉致されたおかげで無理やり引き離され、2年以上帰れてねぇんだから。

不安と恐怖に囲まれて、好き勝手に体を暴かれて過ごした2年。
よく精神が壊れてねぇな、と今さら思う。



兄貴に銃を向けた、あの時。
何人もの男に囲まれて怖かったはずなのに、この女は、どれだけの覚悟で銃を手に取ったんだろう。


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