第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》
「なんか世界一かっけぇバイクあんなと思ったら、マンジローいるんじゃん」
「シンイチローおせぇ!」
客用の飴をマイキーに与えて雑談していると、外からガサガサと袋の音が聞こえてきて。
バブのシートをひと撫でして店に入ってくる真に「おかえり」と言った。
マイキーに目を向けながらもこっちにまっすぐ向かってくる真は、目の前で立ち止まる間もなく腕を伸ばしてあたしの腰を抱いて「ただいま」とこめかみに口付けを落とすもんだから。
弟の前でやるなよ、と思わず零した。
「オレの前でイチャつかないでくんない?」
「夫婦なんだから別に問題ねぇだろ?」
げぇ、と目を細めて顔をしかめるマイキーに、真はニヤニヤと笑っていて。
けどあたしもマイキーと同感で、離れて欲しいから無駄に背の高い真の胸を押した。
無理やり離されて、さっきのマイキーと似た顔で唇を尖らせる真。
手にある袋に入った固形物がケツに当たって地味に痛かったから、たぶんまたコーラ買ってきたなコイツ。
冷蔵庫をコーラで埋めないでほしいのに。
「…まいーや。あのさぁなんかバブが調子悪ぃんだけど」
「あ〜?…は、つかオマエ調子悪ぃってわかってんのに乗るヤツがあるか!」
「だァって今日これから集会あんだもん」
「そういう問題じゃねぇわ!…ったく、ケンに迎えに来てもらえばいーだろ。とりあえずバブは置いてけ」
「え゙ー!?」
「だーめーだ」
舌打ち混じりに「喧嘩弱ぇくせに」「女…つーか蛍さんに弱ぇくせに」とブツブツ呟きながらドラケンに電話をかけているマイキーと。
あたしに袋を手渡して、外にあるバブをメンテ台に乗せる真。
鍵を抜いて真がそれを作業着のポケットに突っ込んだことで、マイキーは完全に諦めたらしく…
「総長がバイク乗ってねぇとか超ダセェ…」とため息を吐きながら、ドラケンの到着を待った。
数分経って迎えにきたドラケンと挨拶を交わし、未だ拗ね気味のマイキーに袋の中に入っていたどら焼きを手渡して。
途端に「やった、ありがと蛍さん!」と目を輝かせてすぐそれを頬張りゼファーに跨る義弟に手を振って、二人の背を見送った。
おそらく、あのどら焼きは真のモノ。
店を閉めたあと、2階に上がった真が「無ぇ!!!」と絶叫していたので笑っておいた。