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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》




そして9月。
真の怪我が治り、間を空けずに予定通りの結婚式を挙げ…仲間や友人たちと騒ぎに騒ぎまくった。
一切男と関係を持たなかったあたしの結婚に、古くからの友人たちは泣いて喜んでくれて。
釣られてあたしも泣いてしまったけど、「幸せになってね」と言う友人たちに「もう充分幸せすぎるくらいだけどな!」と笑って見せた。



それから月日が経ち、1年後。
ようやく、手にしたかったもうひとつの幸せが手に入ろうとしていた。






遠くに見える山が、色付き始めたある日のこと。
店番をあたしに任せてコンビニに行った真が、そろそろ帰ってくるだろう頃の夕方6時前。

懐かしい、けど最近また聞くようになった排気音が、店に近づいてきて…停まった。
この時間に珍しいな、と店の中から外を窺えば、あたしの姿をとらえたマイキーが手を振っている。



「マイキーじゃん」
「やっほ。ねぇシンイチローは?」
「コンビニ行った。そろそろ戻る頃だけど…どした?」
「あーいや、バブがさぁ、なーんか調子悪くて」



バイクのことは真じゃなきゃ詳しくないもんな。

エンジンを止めてバブから降り、店の中に入ってくるマイキーの服装は黒づくめ。
黒龍時代の真が着ていた物と似たような黒の特攻服には、マイキーが友人たちと創設したというチーム名や四字熟語が金色で刺繍されていて。
デザインは違えど、あたしも着たなぁ…なんて頭の隅で思い出にひたる。



「あ、そーだ蛍さん、オレ彼女できた!」
「え、マイキーに彼女?…絶対その子苦労するじゃん」
「はぁ?何それ。ウザ」
「ウザイ言うなこら。は〜やだやだ、歳を感じる…」
「はは!蛍さんまだ若いじゃん」
「あーお世辞でも嬉しい。…大事にしなよ?」



ニッと笑うマイキーの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやれば、少し髪が乱れて。
あ〜せっかくエマが結ってくれたのに!と途端に唇を尖らせた。
ぶすくれたついでに、とんでもないことも言い出して。



「つーか子供まだできねぇの?シンイチローとちゃんとヤってる?」
「…中坊に話す内容じゃないんですけどー」
「はあ?ガキ扱いすんなし!」
「11も年下ならガキだわ」



なんだかデジャビュを感じる会話。
真にも言ったことあるような…ないような。


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