第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》
寂しそうな声に、真とあたしは同時に目を見開いて。
さすがに、弟にそんなことを言われてしまっては真も泣きそうになり…
「っ、オウ、当たり前だろ?誕生日までにこんな怪我治してやる!」
慌てて誤魔化すように、歯を見せて満面の笑みでマイキーの頭をまた撫でた。
あたしも釣られて泣きそうになったことは、内緒。
「まじ?治んのっ?…シンイチロー弱いのに?」
「あン?おいこらマンジロー、兄ちゃん舐めんじゃねぇぞ?」
一瞬、キラキラと目が輝いたマイキー。…が、すぐ疑り深い目に変わり、真をジト目で睨んでいる。
窓際で思わず小さく笑ってしまい、ベッドにいる二人にこちらを向かれた瞬間「マイキー!なに飲む?」と元気なエマとお爺さんが戻ってきた。
コーラを手にしたマイキーが蓋を開けて一口飲み…真がそれを奪って飲んだことでマイキーに足を殴られていたけど。
微笑ましい光景。
もしかしたら無かったかもしれない…幸せで、でもなんて事の無い時間。
数時間前までの、恐怖で震えていた時間が、まるで嘘のようで。
みんなが帰ったあと、じわじわと二度目の安堵が押し寄せてきて…真に抱きついて泣いてしまって。
あたしを抱きしめ返して宥める真の唇に、無理やりキスをしてやった。
「あ゙〜…くっそ、ヤりてぇ…」
「うっせぇよ帰ったらなッ!!」
怪我が治ったら、とりあえず一発殴らせてほしい。
あたしの心配と、恐怖で戦った時間を返してくれ。
検査続きの約1週間を病院で過ごしたのち、ようやくの退院でバンザイして大喜びした真。
エマと二人で作ったケーキを囲んでマイキーの誕生日を祝い…
数日後、怪我の具合を見ながら無理しない程度に、マイキーと約束したバブのメンテを終わらせて。
ようやく、プレゼントすることができた。
バブの大きさに体格がまだ馴染んでいないけど…バブに跨るマイキーの後ろ姿になぜか、出会った頃の真の姿がふと思い浮かんだ。
「似合ってんじゃん、マイキー」
「まさかマンジローにオレの愛機をやる日が来るなんてな…譲るって言ったけど、なんか寂しいもんだな」
「ぶふっ、シンイチローおっさんみたいな言い方!」
「生意気言うなコラ。…事故は起こすなよ?」
「ウン!ありがと真一郎、大事にする!」
その時のマイキーの輝く笑顔は、今まで見た中で一番だった。