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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》







「麻酔の投与は終わっているので、声をかければ目が覚めると思います」
「あ、はい」
「詳しい検査は午後にするので、今は休んでください。個室なので泊まっても大丈夫ですよ」
「はい、ありがとうございます」



真っ白で清潔な服を身にまとった看護師さんに会釈をして、ベッド脇のパイプ椅子に腰かける。

頭には包帯を。
軽く固定されている左腕にも窮屈そうに包帯を巻かれ。
整えられていたベッドに皺を作って横になり、酸素マスクの下で寝息をたてている、真。



「…しん、いちろ、」



何ともない右手を両手で握りしめ、小さく呼びかけながら頬を擦り寄せる。
少しだけ、頭に振動がいかないように握ったそれを揺らせば、まつ毛が一瞬だけ震えて…



「起きて、真」
「…………ん…ぅ…」



重そうに、ゆっくりと瞼が開いた。







──…あの時。
あたしの声に反応し、すんでのところで腕を頭上に振り上げた真。
小柄な人影が振りおろした武器は真の腕に直撃して、頭に掠って妙な音がした。

その光景に一瞬、目の前が真っ暗になって。
足元がフラついた。

反動で倒れて、小さくうめき声をあげている真にかけ寄る。
…の前に、襲いかかろうとしてきたその人影の頬に一発、拳をぶちこんだ。
それだけで気絶したらしく、倒れて動かなくなったことを確認してから真のすぐそばに膝をついて、とりあえず脈を確認する。

トクン、トクン、としっかり脈を打っていて、安堵のあまり視界が滲んだ。
慌ててそれを拭い、店の固定電話で救急車を呼び……もう一人、店の入口の方に立っていた、どこか見覚えのある顔の人影に「ぜってぇ動くなよ!」と強く言い放って保険証やら何やらを2階に取りにいった。

戻っても、変わらず立ち尽くして…どうやら泣いているらしい人影に意識を向けながらも真の様子を窺って、救急車の到着を待った。

近所の人が呼んでくれたらしい警察も到着して…侵入した二人のその後はまだわからないけど。
病院に来て真が手術室に入ってから、怖くて怖くて手が冷えて震えるし、全身に冷や汗をかいた。
店で脈があることを確認したけど、手術中にもし止まってしまったら…と思うと、涙も止まらなくて。



1時間弱経って出てきた先生に微笑まれたときは思わず、泣き叫んで先生に抱きついてしまった。

浮気じゃないから、許してね。


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