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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》






ガシャンッ


ガラスの割れるような音で目が覚めた、夜中の3時過ぎ。
寝る時はいつも隣にあるはずの温もりがなく、目を開けて見れば真の姿がないことに気づいた。
夜更かししてんな?とため息を吐きながらベッドから起き上がってリビングへ向かえば、案の定、ダイニングテーブルで書類に目を通している真の後ろ姿があって。



「こーら、真」
「ッ…ビビった、蛍か」



あたしが寝た後も仕事をしていたとは言え、こんな夜中…あと数時間で朝日が昇る時間なのに風呂にすら入っていないようで、仕事着のままの真。
声をかけると肩を震わせてビビった真に、説教するよりも先に目が覚めた理由を話した。



「割れる音?」
「ウン…猫が喧嘩でもしてんのかな?だったら別にいいんだけど」
「…見てくるわ」
「え、いや、泥棒か何かだったらどうすんの」
「武器もってりゃ大丈夫だろ」



玄関の靴箱の上にたまたま置いてあったレンチを手にした真は、「お前は来んなよ」と緊張した面持ちであたしに言って、静かに、音を立てないように玄関のドアを開けた。

スリッパのまま、すぐ横にある階段をゆっくりと降りていく真の背中を見つめながら、手に汗を握る。
飲み込んだ唾がゴクリと音を鳴らして喉を通ると同時に、なぜか額に冷や汗が滲んできて。
ドクドクと、心臓だけでなく全身が変に脈打った。



…なんだろう、この胸騒ぎは。
嫌な予感がする。



来るな、という真の忠告を無視して、階段を降りきってすぐに階下で誰かと話しはじめた真の声を耳にしながら…あたしも階段を降りた。
音をたてないように、真のいる階下へ…あと数段。

突然、視界の端から目の前を何かが通り過ぎていった。

その一瞬で見えた、まだ小柄な人影と……手にして構えていた、武器のようなもの。



あ、まずい。
「真ッ!!!」



思うが早いか、言うが早いか。
飛ぶようにして残りの数段を一歩で降り、深夜ということは忘れて、腹の底から叫んだ。

まるでスローモーションのように…。
非現実的だと思っていたそれが、目の前で起こった。











あまりにも衝撃的な光景に、その時はよく理解できていなかったけど。


あの、ほんの一瞬の判断で、真の生死が別れていたのだろう。


無機質な機械音が響く病室で落ちつきを取り戻し、ようやく理解できた。

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