• テキストサイズ

【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》




「あ゙〜鼻いてぇ…」
「…アイツのせいで」
「ん?」
「アイツのせいで、場地が怪我した。もういらねーよあんなモン」



マイキーは不貞腐れたように唇を尖らせながら、小さくそう呟いた。
ドラケンもどこか気まずそうに目を逸らしたため、思わず真と顔を見合わせる。

何かあったな…と思いつつも、あたしも真も詮索するつもりは無くて。
マイキーは今年13歳。難しい年頃だし、深入りしてもさらに拗ねるだけかもしれない。



「…で?そのホーク丸は」
「置いて来ちった」
「置い…は?」
「ウン。だからシンイチロー、軽トラ出してよ」
「え、どこまで」
「…ヨコハマ?」
「はあ!?」



ゼファーから降りてヘルメットを脱ぐマイキーの言葉に、今度はあたしが吹きそうになって。
そんなに遠出してきたのか、いいな、なんて思ってしまった。

どこか面倒くさそうに髪をかき乱す真に、「行ってきなよ」と言って肩を叩く。
口を歪めて振り向いた真は、不満そうにあたしを見つめるけど。
弟の一大事に、兄が助けてやらないでどうする?と言えば、しぶしぶ軽トラの鍵を取りに行った。



「ほんとヤンチャだよな、マイキーって」
「いーんだよ!これがオレの取り柄だし。蛍さんだって元ヤンじゃん!」
「あたしは足洗ったからいーの。掘り返すなクソガキ」
「えっ蛍さん元ヤンだったんスか?見てぇ!」
「ケンチン見たことねぇもんな!」
「いや、見せモンじゃないし見なくていーわ!」



そのあと鍵を取ってきた真が「元ヤン時代の蛍は金髪美女だったぞ」と楽しそうに要らぬことを言うもんだから、軽トラに乗る二人に「早く行け!道中気をつけなよバカ!」と叫んでやった。

‪目を輝かせるドラケンも何とか帰し、真も帰りが遅いだろうから早めに店を閉めて夕飯の買い物にいこう…と考えてため息を吐き出した。










「誕生日にオレのバブやるよ、マンジロー。欲しがってたよな」



子供できたら乗ることも無ぇだろうし。と帰ってきて早々、タバコを吸いながらそう言った真。
マイキーの目は輝き、嬉しそうに飛び跳ねる姿はまだまだ子供で。
「メンテしとくわ」と言って指切りをした兄弟に、あたしは胸が温かくなった。






…それから数日後。
あんな事件が起こるだなんて…いったい誰が想像しただろう。

/ 257ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp