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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》




「そんでさ、バイク屋やろうかなって」
「へぇ、いいんじゃない?」



2年前まで定着していたリーゼントは、付き合ったあの日をきっかけに見ることはなくなった。
たまに寝癖がついている時があるけど、いつも自然な髪型でいるようになった真は、やっぱりリーゼントじゃない方がどこかイケメンに見える。



「で、さ。ちょっと相談、つーか…」
「え、なに」



佐野家、真の部屋のソファーに並んで座っているあたしの片手を握りしめ、どこか真剣な声色で話し始めた真。
首を傾げて横顔を見つめれば、照れたように頬を指先でかき、あたしにチラチラと視線を送り…少しだけ唇を震わせながら、こう言った。



「…同棲、しないか…?」
「………え、ど…どう、せい?」



どうせい…同棲?一緒に住むってこと?

衝撃の相談…提案に、思考が停止して。
「いや無理にとは言わねぇよ?蛍が良ければって話で!」…という真の慌てたような声で、ようやく我に返った。

真いわく、佐野家の近くに二階建ての売物件があるらしく、そこの二階は掃除して少し改装すれば住居にできるらしい。

…別に、嫌なわけじゃない。
弁当屋からは少し遠くなるけど、歩いて30分、自転車で15分弱くらいだから…い、一緒に住むことに関しては別に、問題は…















ない。
ということで、真と暮らすことになって。
バイクショップの経営も、いろいろ困難はあったけど特に大きな問題はなく、いい方向でまとまって落ち着いた。
あたしも、仕事が休みの日は書類整理を手伝ったり、遊びに来る黒龍の連中の相手をしたりして…



「蛍、お前のみそ汁を毎日食いたい!」



唐突に、顔を赤くしてそう言ってきたのは、同棲して約1年後のことだった。



「……毎日みそ汁は飽きるだろ」
「…え、や、そうだけど…そうじゃなくてッ!」
「今でも何日かおきに食べてんじゃん」
「だから違うんだって!そういう意味で言ってるわけじゃ、」
「おかずでもみそ汁でもスープでも何でも、これからもずっと毎日食べさしてあげる」
「オレはお前とっ……え?」
「…それで?」



真が22歳、あたしが23歳の、12月。



「…け、結婚してくれ…さいッ」
「うん、よろしくお願いします」



あたしの苗字が、蕪谷から佐野になった。

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