第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
「バカで、弱くて、」
「う…だ、だから、それは…」
「泣き虫だし」
「!?な、泣いてねぇしッ!泣き虫じゃねぇぞオレは!!」
ぐしぐしと慌てて服の袖で目元を拭う真に、吹き出しそうになって…堪える。
笑うのは、まだ。
「…まずさぁ、リーゼントやめたら?似合ってないし、あたしソレあんま好きじゃない」
片方の眉を上げて真の頭を指させば、目を丸くしてその場でぐしゃぐしゃと髪型を崩し始めた。
髪型が崩れないようにと付けていた整髪料が、無理やり髪型を崩されたせいで真の髪を所々白くさせる。
ボサボサになって、不格好な見た目をしているとわかっているはずなのに、ドヤ顔で見つめてくる真に…堪えきれずに吹き出した。
「ぶはっ、ぐっちゃぐちゃじゃん!」
「だッ、て蛍がリーゼント好きじゃねぇって言うから!」
「しょーがないなー。直してやるから、屈んで」
言われるがまま屈んだ真の髪に、両手で触れる。
それを滑らせ、真の頬に当てて少しだけ持ち上げ…
そ、っと。
音もなく、かさぶたのある真の唇にあたしの唇を重ねた。
思わず閉じていた目を静かに開けば、こぼれ落ちてしまいそうなほど目を見開いている真の顔が、至近距離にあって。
一度だけ瞬きをし、冷たい空気と熱い吐息のせいで湿り気を帯び、少しだけ貼りついていた唇をゆっくりと真から離した。
チュ…と小さく鳴ってしまった音に、急に恥ずかしくなって…熱が集まりはじめた顔を隠すように、笑みをこぼす。
「ん、少しはイイ男になったんじゃない?」
「………へ、なん、…え?」
笑って余裕ぶるあたしとは正反対に、短い瞬きを繰り返してあ然と口を開けている。
状況をのみ込めない真に、あたしはさらに追い打ちをかける。
「今の、ファーストキスだから」
「…え」
「処女はアイツらに勝手に奪われたけど…キスは、一回もさせなかったよ」
「…ふぁ、ふぁーすと…」
「ファーストキス、な」
はにかめば、真の口から「くぁ…ッ」と意味のわからない声が聞こえてきて。
「…ずりぃよ蛍…」
「なにが」
「そーいうことされたら、もっと好きになっちまうだろぉが…」
泣きそうな顔でそう言う真が、何だか可愛く見えて。
ふは、と息を漏らして、一度離した顔をまた近づけ…今度は額をくっつけた。