第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
緊張したようにため息をゆっくりと吐き出す真の指に、あたしも指を絡める。
ピクッと真の指先が動いたけど、まるで何事もなかったかのように静かに話し始めた。
「オレさぁ、努力って嫌いなんだけど…蛍はどうしても諦めらんなくって」
「……」
「…一目惚れだったんだ。あのとき妹に向けてた優しい笑顔が、どうしようもなく可愛くて…すげぇ綺麗に見えて。それだけじゃなくて、見ず知らずの子供に絆創膏あげるくらい優しい人なんだなって思ったら…あの一瞬で、オレが守りたいな、一緒になりてぇな、って…好きになってた」
キュ…と、今まで聞いたことのない音が、自分の胸から聞こえてきて。
心臓が締め付けられるような小さな痛みも走って、何なんだコレ…と考える間もなく。
そんなあたしに気づくことなく、真は続ける。
「喧嘩弱ぇし、全然、男として頼りねぇオレだけど…蛍を想う気持ちは誰にも負けねぇし、許されるならこれからはオレが蛍を守ってやれたらなって思ってる。でも、…でもさぁ、……はぁ──ッ…」
突然、真は深く息を吐きだしながらあたしの手を離して立ち上がると、ベンチに座ったままのあたしの目の前に立った。
真剣な顔。
顔がボロボロじゃなきゃ、かっこよく見えてモテたんだろうな、って。
でも…
「…オレは、守りたいと思ったお前を、守れなかった…ッ」
どこか、泣きそうな顔。
辺りはもう薄暗くなっているから、よく見えないけど…街灯にかすかに照らされている真の目は、少しだけ光っている気がして。
「…だからこれで、最後にする」
そして、まるで初めてコイツが倉庫に来た時のように…
初めて話した時と同じくらいの勢いで、真は頭を下げた。
「蛍!オレの女にな、ッ…つ、付き合ってくださいッ!!!」
大事なところで噛むのが、真らしいなって…
思わず頬が緩むのは、きっと気のせいじゃない。
何も言わず黙り込むあたしは、おそるおそる顔を上げて覗き込んできた真と見つめ合う。
…素直に、なれないから。
「…真のくせに」
憎まれ口を叩いてしまうことを、どうか許して。