第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
「…好きになればいーじゃん。その代わり、あたしがあげる愛より、もっといっぱいの愛をちょーだい」
真の、膝に置いている手にあたしの手を重ねて、囁くように想いを伝える。
…でも、こいつはやっぱりバカで。
「…ん?え!?な、ちょ、え、」
「見事に落としてくれちゃったよなー、真のくせにさ」
「ちょっと待て、どういうこと、ッ、は?」
「鈍いなお前…」
「あ、いや、言葉で欲しいっつーか…」
今言ったのにな…
鈍すぎだろ。
振られやすい理由ってそういうとこじゃないのか。
思わず溢れるため息に、真は慌てたようにごめんと言うけど。
ハッキリ言わないと伝わらないくらい、真が鈍い男なら…あたしが素直になって伝えなきゃ、ダメみたいだ。
「…あたしも、真のこと好きになっちまった」
「っ!」
「だから、…よ、よろしく」
お願いします…とだんだん小声になっていくあたしに、真は勢いよく抱きついてきて。
「ぐぇッ」とカエルが潰れるような声が出ても、恥ずかしがる間もなく真があたしの肩に顔を擦りつけて唸っている。
怪我したとこ痛くねぇのかな…と心配になり、胸を押して離そうとするけど…離れない。
真より喧嘩が強い自信はあるけど、やっぱり男相手だと力には勝てないらしい。
悔しい…でも、それ以上に嬉しい。
まさか自分に好きな人ができて…その上、彼氏ができるとは思いもしなかった。
「…なぁ、もっかいキスしたい。…いーか?」
「……好きにすれば」
「ん、じゃあするワ」
ゆっくり、優しく頬に触れてくる真の手に擦り寄れば、口を歪めて幸せそうに目を細める真に、顔を近づけた。
傷だらけでボロボロ。
全然かっこよくないし喧嘩も弱いくせに…こんなにも真っ直ぐな男が他にいるんだろうか。
…なんて考えたら、笑えてきて。
思わずニヤけた唇にそのままキスをされて…隙をつかれて口を開かされ、ぬるりと何かが侵入してきたから…
何だかもう、どうでも良くなった。
…でも、調子に乗って胸に触れてこようとしたから一発ぶん殴ったワ。
第10章に続く。