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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●







「ん、と〜ちゃく!」
「…神社?」



夕方、雪がちらちらと降っている中、落ち着いて話をできる状態になったあたしに「今からデートしねぇ?」と言っていきなり手を引っ張った真。
自らの愛機の後ろに半ば強引に乗せられてやって来たのは、一度も来たことのない神社だった。

特に大きい神社というわけでもない。
参拝客も、周りを見渡したけど見当たらないし、神社の前の道路も人や車の通りが多いわけでもないし…静かだ。

何んでこんなところに?と、バイクから降りながら首を傾げる。



「毎年クリスマスに弟妹と来てんだけどさ。今年は、蛍とここに来たかったんだ」



クリスマス…
デートしようって言ってたのは、ここに来るためだったのか。



「…まぁ、当日はあの暴走族探してて、ここには来れなかったんだけど」
「……」
「でも、今日お前と来れたから、いい」



とりあえず参拝しよーぜ!と笑って、泣きすぎたせいで頭がボーッとしていたあたしの手をまた引っ張る真。

来たからには、お参りは大事だよな…と、ポケットに入っていた10円玉を賽銭箱に入れた。
辺りに二人分の鈴の音が響きわたり、二礼二拍手一礼をして。

あたしは特に祈ることはないし、早めに済んだけど。
隣を見てみれば、真はまだ手を合わせていた。
真剣な顔で、眉間にシワを寄せている。

…と、何となく見つめていたら。



「……ん、よし。蛍っ!!」
「ッ!?え、な、ナニ…」



数分…数秒かもしれない時間が経ち、ようやく真が合わせていた手を下ろして顔を上げた。
思わず肩をビクつかせてしまったけど、それよりもこっちに勢いよく振り向いたことに驚いて…少し仰け反る。



「オレの話、聞いてくれるか?」
「……う、ん…?」



真剣な顔でそう言われたら、断れるはずもなく。
ぎこちなく頷けば、柔らかく微笑んであたしの手を握り…指を絡め、そっと引っ張った。

誘導されて向かった先は、数十メートル歩いた所にあるベンチ。
公園や街中のどこにでもありそうな…でも神社には不釣り合いなそれに、二人で腰掛ける。

手は、繋いだまま。
雪がまだ降っているせいで、指先が冷えてるはずなのに……なぜか、火照る。

顔も…冷たい風に当たっているはずなのに、熱い。


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