第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
「ねぇマイキー、蛍と別れたってほんと…?」
あのあとケンチンと近場をツーリングしてサボり、集会の前に一度家に帰ると、先に帰宅していたエマが走ってきて開口一番にそう言った。
部屋着に着替えず制服のまま、不安げな顔でオレを覗きこんでくるエマに、オレは思わず抱きついて呻く。
そんなオレを拒むことなく、エマはオレの背中をポンポンと優しく叩いてあやしてくれた。
「エマどうしよ、オレ生きていけない…」
「も〜、何があったの?蛍から連絡があってびっくりしたんだから」
「あ、そうだエマさー蛍に電話かけてくんない?ちゃんと話したくて」
「え、どういうこと?マイキーが電話すれば…」
「着拒されてンの」
「うそ!?」
嘘じゃないんだよなー…とため息を吐けば、エマはオレから離れると眉を寄せ、顎に手を当てて考え込みだした。
なにか心当たりがあるのかな、と黙っていれば、オレを上目遣いで見つめる。
「…マイキーさぁ、何か心当たりないの?」
「は、オレ?」
「なんか、こう…喧嘩とか、蛍を怒らせるようなことしたとか…」
「身に覚えがないから困ってんの。それに蛍は昨日の電話でオレに『好きな人ができた』って言って振ったんだぞ?オレ悪くねーじゃん!」
「え゙っ」
目を見開くエマに、昼休みのケンチンが被って見えた。
何だかんだ似ている二人は両片思いで、オレは仲介役。
早くくっつけばいいのに…なんて今の状況に場違いなことを考える。
「じゃあ、蛍が言ってた『万次郎のことはもういいの』って…そういうこと?」
「はあ?ンなこと言ってたの」
「うん…え、でもおかしいよ!マイキーのそばにいる時あんなに幸せそうな顔してるのに!他の人を好きになるなんて…蛍はそんな軽い子じゃないのにっ」
ちゃんと理由聞かなきゃ!と怒ったエマは重大さを理解したのか、スカートのポケットから慌てて携帯を取り出す。
慣れた手つきで蛍に電話をかけるエマはこの場を離れようとするけど、オレはそんなエマの腕を掴んだ。
「え、マイ…あ、蛍?ごめん今だいじょーぶ?」
「貸して」
「あっマイキー!」
エマの手から携帯を奪い、電話の向こうから聞こえた、驚いている声をだす主に話しかけた。