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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●




「オレの顔も、コイツの顔も、二度と見たくなかっただろうけど…」
「…〜っ」
「オレが、どうしても許せなくて」



真が、臣から受け取った一人の男。
袖に書かれた“総長”の文字に、膝がガクンと折れて地面に座り込んでしまう。

臣、ワカ、ベンケイに引きずられている数人の中で、その男の怪我が一番酷くて。
半開きの口から見える歯は、上と下の前歯が一本ずつ抜けてしまっている。
右手の指も一本だけ、あらぬ方向に曲がっていた。

…真が、やったの?
なんて聞かなくても、男を睨みつける真の表情で、それはわかりきっていて。

犯人を見つけて殴ってくれた嬉しさと、目の前に自分を犯した男がいるという困惑が綯い交ぜになり、涙腺が刺激されて…堰を切ってあふれた涙が、止まらない。



「ふ、っ…ぅ…ヒック」
「…当たりか。良かった!」



ズルズル、男を引きずってあたしのそばに歩み寄ってくる真。
さすがに副総長も特攻隊長も、あまりにも衝撃的な展開に体が動かないらしく…
誰にも邪魔されることなく一直線にやってきた真は、あたしの目の前にしゃがみこんだ。

まるで、クリスマスの時みたいだな。
そう思ったけど、状況が真逆だから…不思議だ。



「蛍、どうするコイツ。…とりあえず一発殴る?」
「ヒック、…ぅ、グスッ、も、いい、…あんたが、真がいっぱい殴ってくれたんでしょ…ッ?」
「おう!…マ、おかげでコイツの歯がぶっ飛んじまったけどな」



かさぶたが出来ている拳を見せつけながら、ニッと歯を見せて笑う真。
でも顔がボロボロのせいか、歪んだ笑顔にかっこよさは全く無くて。
思わず、あたしも頬が緩んだ。



「グスッ、…ふは、何であんただけ傷だらけなんだよ?くっ、あはは、どんだけ弱いの…!」
「よッ弱いって言うな!…喧嘩っつーのは勝ち負けじゃねぇ。大事なのは、守りてぇモンを守れるかどうか、だろ?」



まあ…今回は、守れなかったけど…。

気まずそうにそう言って、貼られた絆創膏の上から指先で頬をかいた真は「痛っ」と自業自得なことをして、はにかんでいる。

可笑しいけど、でも、それ以上に…何であんたはそんなに優しいんだ?って…言葉にできない気持ちが溢れて。

思った直後に、あたしは真の胸に抱きついていた。


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