第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
「…え?」
耳を疑った。
聞き慣れた、数日間聞いていなかった声に名前を呼ばれて、反射的に顔を上げてしまう。
声の元、倉庫の入口に目を向ければ…
「よ!元気だったか?」
イブの前日と同じ笑顔で片手を上げる、真がいた。
でも、最後に会った日とは違って、顔や手が傷だらけで。
痛々しそうに頬や目の周りが腫れ、ガーゼや絆創膏が貼ってある。
…なんで。
なんで、来たの。
来るなって言ったのに、顔見せんなって言ったのに。
そう思うのとは裏腹に、心の底から喜びが湧き上がってくるのを感じる。
…会えたのが、何よりも嬉しくて。
思わず立ち上がり、一歩踏み出そうとした。
でも、…あたしから、近づいていいのかな、なんて。
躊躇って、唇を噛みしめてその場に踏みとどまった。
「っ…なに、しに来たの、来んなッつったじゃん、」
嬉しいくせに。
素直になれないのが、馬鹿らしく思う。
「蛍に、確かめてもらいたいことがあってさ」
「は?…え、…!?」
「コイツらで、間違いねぇか?」
まあ、もうやっちまったから、違ったとしても遅ぇんだけど。
ズルズルと、何かを引きずる音が倉庫に響き…
あちこちから、仲間たちの小さな悲鳴が聞こえてくる。
今度は、目を疑った。
真の後ろ…臣やワカ、ベンケイの手に襟を握られ、地面に引きずられているモノ。
深緑色の特攻服を身にまとった…数日前、クリスマスイブに嫌という程目に焼き付いた、あの男たちがいた。
それだけじゃない。
その男たちは意識が無いようで、ぐったりとしていて…傷だらけの真より、顔の原型がわからないくらいぐちゃぐちゃにされ、血だらけで、特攻服もボロボロになっている。
あまりにも悲惨なその姿に、思わず口元を両手で覆ってしまった。
「っな、…なん、で…」
「…悪ぃな、時間かかっちまって」
「や、…は?なに、どういうこと…ッ?」
「探してたんだ。お前らを襲った連中」
教えて、ないのに。
仲間たちもあの日が恐ろしくて、暴走族の詳細をチーム外の人間には口外してないはずなのに。
──倉庫に来なかった、数日間。
その男たちを、探し回っていたというの…?