第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
あの日、…クリスマスイブの日。
名前も知らない総長に犯され、妊娠の可能性がないか不安だったけど。
一応あの男、避妊はしていたらしく。
産婦人科にいこうかどうか悩むまもなく、真を突き放した次の日に、予定通りの生理がきた。
初潮から今までずっと大嫌いだった鈍痛に、感謝してトイレで泣き叫ぶ日がくるとは思わなかった。
あまりにも声が大きすぎて、たまたま家にいた祖母に心配されてしまったけど…
あの日のことは決して打ち明けず、なんでもない、と笑ってはぐらかした。
そしてあたしは、一つの決心を固めようとしている。
「…お前はさ、…このまま、あたしが総長の座にいていいと思う?」
「………それは、ウチが決めることじゃない。蛍自身が決めることだから、何とも言えない」
副総長に、今後のことを相談していた。
皆を危険に遭わせ、一生記憶に残るような、最悪の出来事に関するすべての責任を…投じようと思ってるわけじゃない。それは確かだ。
ただ、あたしはもう…『皆を守る』と胸を張って、堂々とチームを引っ張っていく自信を持てなくなってしまったから。
「…降りるよ。あたし」
「……そっか」
「お前は…任せる。総長になりたいなら、あたしの口から任命するし。…お前になら、安心して預けられる」
「いらない。…頂点に立つより、ついて行くと決めたヤツの後ろに立つ方が好きなんだよ、ウチは」
「……そう」
お前はいつもカッコイイな。
そう言って笑って見せれば、副総長は…出会ってから初めての、涙を流して見せた。
皆、まだ気持ちが混乱しているだろうから。
あたしと、副総長の解任については、年が明けてから…と。
それまでは、せめて笑顔でここにいよう、と二人で決めた。
──…あの日から、あいつは一度も来ていない。
そりゃそうだ。
当たり前だ。
あたしが来るなって言ったんだから。
顔も見たくない、なんて…心にもないことを言ってしまったんだから。
言葉は、口に出してしまったら元に戻すことはできない。
一生、誰かの心に残るモノ。
「……さびしい、…か」
皆のいる倉庫で独り、膝を抱えてぽつりと呟く。
寂しい…なんて、言っていい立場じゃないのに。
自分で拒絶したくせに、今さら後悔するなんて…
「蛍!」