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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●





「帰ってくださいッ!!!」



いきなり倉庫に響いた仲間の声に、抱えていた膝に埋めていた顔をゆっくりと上げた。

次の日、クリスマスの朝…というよりは昼前の時間。
いつもと同じような時間に、あいつはやってきた。

…なんで。
あいつの愛機…バブのエンジン音がしなかったのに…
あたしが聞こえなかっただけか…?

薄ぼんやりとした視界に、倉庫の入口に立つ背の高いあいつを写す。
ゆっくりと焦点が合い、見えたあいつの表情は……絶望、だろうか。
白い肌が、さらに白く見えるような気がする。

あいつの後ろにいる黒龍のいつもの3人も…険しい顔をしていて。
まあ、この状況を見れば、さすがに察するよな、って…言い方は他人事っぽいかな。

入口の外から入り込む光が、眩しい。



「だめ、帰って、お願いだからッ」



引き止めようとするあたしの仲間を振り切って、半ば走っているような早歩きでこっちへ向かってくる、近頃に見慣れすぎたあいつ。
でも、昨日の出来事があまりにも濃すぎて…会うのが久しぶりのような錯覚が起きる。



「蛍、どうし…ッ」
「佐野真一郎」



あたしの元へたどり着く直前、うちの副総長が目の前に立ちはだかった。
突然暗くなった視界に、ゆるりと瞬きをする。



「頼む。…帰ってくれないか」
「…理由を聞きてぇんだけど」
「……ッ、お前に関係な、」
「オレは蛍に用があるんだよ。なあ、どいてくれ」
「ッ、おい!」



強引に、転ばない程度に彼女を突き動かし、あたしの目の前にしゃがみこんだ。
眉を寄せたブサイクな顔で覗き込んでくるヤツとは目を合わせず、半分だけ開いた目で虚空を見つめる。



「…何の用」
「…みんな怪我してる。何があった?」
「……関係ねぇだろ。さっさと帰れ」



拒絶するように、ヤツから背けた顔を膝に埋める。
すると、膝を抱えていたあたしの腕をいきなり掴んできて…ゾワッ、と鳥肌がたち、同時に全身に震えが走った。

キモチワルイ…



「蛍」
「帰れッつってんでしょ、ッ触んな、」
「なあ、」
「触んなッつってんだろ!!!」



バチンッ!と、倉庫に皮膚を叩く音が響く。
腕を掴んでいた手を振り払うつもりが、ヤツの頬を叩いてしまったことにハッと気づいて…ズキン、と胸が痛んだ。

なんだ、これ…?


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