第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
「あ、起きたぁ?」
「お?ははッ嘘だろ泣いてんじゃん!かぁわい〜怖いのぉ?」
何、言ってんの?
泣いてねーよ…
そう言おうと思ったのに、何故か声が出なくて。
こめかみに流れ続ける液状の熱で、初めて泣いていると気づく。
…あたし、泣いてんのか。
何で、こんな奴らに泣くとこ見せてんの…止まれよ、泣くな…!
「姐さん…っ」
「蛍チャンだっけ?可愛い名前してんなぁ?」
「っ気安く呼んでんじゃねぇよクソ野郎ッ!!」
「黒龍に調教されてると思って来たんだけどよぉ、違うかんじ?なんか処女っぽいな〜蛍チャン」
「まじか!俺奪っちゃおっかな〜♡」
うちの副総長と特攻隊長が、目の届く場所で男に押さえつけられている。
…あたしの仲間に触んな、汚すなよ、やめろ…!
自分も危機的な状況なのに、仲間のことが気がかりでしかたなくて。
殴られた頬の痛みで表情筋が動かないし、涙も止まってくれない。
拘束されているらしい手首も痛い。
「ッテメェら!姐さんに手ぇ出したら、死ぬだけじゃ済まねぇからな!?あいつが…黒龍の佐野真一郎が黙ってねぇぞッ!!!」
あんまり叫ぶなよ…煽るだけだから。
お前らだけは、無事でいてほしいのに…
「お〜怖い怖い!俺震えちまう〜!」
「ギャハハ!その佐野真一郎が来ねぇ日を狙って来たンだよバァカ!足取りも捕まんねーようにちゃあんと考えてんだよ、舐めんな!」
「あの佐野真一郎が、振られても振られても諦めずに入れ込んでる、って噂聞いたからよぉ?気になって仕方なかったンだよ」
来て正解だったわ♡
そう言ってすぐ、袖に“総長”と書かれた特服の男はあたしに跨って、服に手をかける。
触るな。
離せ。
気持ち悪い。
やめろ。
頭の中では叫んでいるのに、喉が震えてしまって声が出ない。
下着の留め具を外してズラされ、ショーツもいつの間にか剥ぎ取られていて。
自分で触ったことのない奥へと、無遠慮に指を突っ込まれて。
痛くて。
気持ち悪くて。
吐き気がする。
「せっま!本当に処女チャンだァ」
「まじかよ!黒龍の便器だと思ってたのに意外〜」
「処女もらっちゃって悪ぃね〜、イタダキ…ッと!」
ブツ、と音がしたような気がして、同時に走った激痛で閉じた瞼の裏に見えたのは、昨日の…
真の、笑顔だった。