第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
クリスマスイブの暴走をしないあたしのチームはその日、それぞれ自由に過ごしていた。
倉庫で仲間と談笑する者もいれば、家族や友人、恋人とクリスマスイブを楽しむからと倉庫にいない者もいた。
だから、倉庫に集まっていたのはいつもの半分ほどの人数。
元々の人数が100人いくかいかないかのチームだけど、女の族相手なら抗争しても難なく勝利を勝ち取れるほどの戦力はあった。
…でもその日は、相手と状況が悪すぎた。
おやつ時を過ぎた、夕方のことだった。
バイクのエンジン音が数多く響き、倉庫の入口を隙間なく塞ぐようにバイクを停められ……緩んでいた気が、一気に引き締まった。
座っていた者は腰を上げ、皆はバラついていた立ち位置をあたしの周辺に移す。
見知った特攻服じゃないことに、震え出す者もいた。
…深緑色の特攻服を着た奴らにだけは近づくな、なんて…いつだったか真が、滅多に見せない真剣な顔で呟いていたっけ。
鬱陶しいと思っていた真の言葉を思い出す日が来るとは…驚きだ。
目の前にいるのは、深緑色の特服を身にまとう…100人余りの男の集団。
思わず、手に汗を握る。
「お〜お〜!女の子ばっかで楽しそうだなァ〜?」
「いっぱい居んじゃん!いーね、俺らも混ぜてくれよ」
「…誰だアンタら。何しに来た」
──女を無作為に襲う集団だ。もし出くわしたらすぐ連絡よこせ。
最悪だなぁ…やばいわ、真。
まさか、チームの人数が少ない今日、…あんたら黒龍が来ない今日に、厄介なコイツらが来るなんて…思いもしなかったよ。
号令なんて、無かった。
いきなり走り出した大人数の男たちが、武器も持たずに走って向かってきて…一気に囲まれた。
「オマエが総長かぁ?」
「っ…」
「かわい〜顔してんね?…な、俺と遊ぼ〜ぜ♡」
周りで襲われている皆を助けにいける隙は…と、ちらりと視線をそらした一瞬。
男は無遠慮に、固く握った拳を大きく振りかぶって…女相手に本気で殴ってきた。
頬を殴られ、とてつもない痛みを感じると同時に…意識が飛んだ。
──…目覚めた時にはもう、倉庫の中は地獄絵図だった。
殴られ、蹴られ、倉庫の地面には血が飛び散り……泣き叫び、熱い息を吐きながら無理やり犯されている仲間たちの姿を目にして…ふと、目尻から何かがこぼれ落ちた。