第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●
「よぉ蛍!来たぞ〜」
「ゲッ」
次の日。
まじで来た。
倉庫の前にバイクを停め、今日は二人でやってきた。
さりげなく特服の袖を見てみれば、佐野真一郎は初代総長、もう一人の…ロン毛の人は初代副総長と書かれている。
あの人、副総長だったんだ。
「ゲッて言うな〜」
「いや言うわ」
「昨日言い忘れてたから紹介すんな?こいつ、副総長の明司武臣」
「臣でいいぞ」
「どうでもいいんだけど」
「オレのことは真な!」
「呼ばねーよ」
チームのみんなの鋭い視線を気にすることなく、のこのこと倉庫の中を歩いてあたしの隣に座る佐野真一郎。
あまりにも堂々としていて、逆に拍子抜けしてしまい…みんなは怒鳴ろうにも怒鳴れずに苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そりゃそうだ。
今すぐ帰りてぇ。
「今日は蛍のこと、いろいろ教えてほしくてさ!」
「嫌だわ」
プライバシーの侵害って知ってるか。
「好きな物から聞こうかなー、食べ物は何好き?オレはコーラ好き!」
「あんた耳ついてる?つかコーラって食べ物じゃなくて飲み物…」
「真って呼んでくんねーと返事しねぇからな!」
「帰ってよまじで…」
ふっ、と後ろから吹き出す音が聞こえて、じとりとした目を向ける。
うちの副総長が、口を歪めて笑いを堪えていた。
笑ってないで助けて欲しい。
「誕生日は?オレの誕生日、8月1日だから来年祝ってくれよ?」
「ほんとうるさい」
「真は振られるくせにたまにしつけぇから」
「……はぁ…」
煙草を吸いながら佐野真一郎の足元にしゃがんでいる明司武臣は、煙を吐き出すと同時にそう言った。
諦め悪いから振られるんじゃねーの…とは、口には出さないことにして。
ぺちゃくちゃと飽きもせず、自分の好きな物や苦手な物を語って…
「今日は帰る!あんま遅せぇとじいちゃんうるせぇから」
満足したような顔をして、帰り支度を始める佐野真一郎。
「もう来んな」
「明日もいるよな?また来るわ!」
「耳鼻科いけよあんた」
自由奔放すぎて、ため息しか出ない。
勝手に暴露していた情報によれば、佐野真一郎はあたしの一個下、まだ高校3年生らしい。
ガキじゃん…というあたしの呟きには「ガキじゃねーし!」と反抗してきていたけど。
ほんと、変わった奴。