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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●




「…迷惑」
「え」
「帰れ。別にお礼言ってほしくて絆創膏渡したんじゃないから」



泣いてるあの子を放っておけなかっただけ。
他に理由なんてない。

あの時、黒龍の総長の妹だって知ってたら、無視してたかもしんないし。
今後、関わるつもりだってない。

今のうちに突き放しておかないと…後々、黒龍と関わってる、なんて噂が広まったら、チーム全体にも悪影響が及ぶ場合もある。

まさか、あたしの…たった一度の良心でこんなことになるとは…
失敗したな。



「…明日また来るワ」
「はっ?来んなよ」
「明日からはオレのこと“真”って呼んでくれよ?」
「呼ばねーし来んなって!」
「じゃーな蛍!」



不意に満面の笑みで名前を呼ばれ、幼い子供のように元気よく手を振って去ろうとする姿に、思わず口を噤んでしまう。
そんなあたしを見て、チームのみんなが「姐さんが泣きそうになってる…!?」と勘違いしたらしく…

激怒した。



「てめぇ!姐さん泣かしてんじゃねーぞコラァ!!」
「二度と来んなよクソ野郎ッ!!」
「早く帰れぇッ!!」
「いや待て姐さんに謝ってから帰れオラァ!!」
「えっ蛍泣いた!?悪ぃオレなんかしちまったか!?」
「泣いてねーわ勘違いすんなっ、ちょ、戻って来んじゃねーよ帰れってばッ!!!」



ガン!ギン!と鉄パイプを地面にぶつける音とみんなの怒号が響く中、佐野真一郎は「元気だな〜」なんて呑気に笑っていて。

軽い男なのか、ただのアホなのか。
よくわからないけど、機嫌を崩すことなく、他の3人も表情をひとつも変えることなく倉庫を出ていった。



「……変な奴だな、佐野真一郎って」



あたしの少し後ろで事を傍観していた副総長が、静かにこぼす。
手元に置いていた食べかけのカップアイスが溶けてしまっていて、小さく舌打ちをした。



「…めんどくさ。明日まじで来んのかな…」



後ろから手渡されたお茶が入ったペットボトルを口につけ、飲むことなくそのまま深くため息を吐く。
なんだか一気に疲れた。

くそ…
厄介なモンに目をつけられたな…。



あいつの言う「好き」と「明日また来る」が本当なら、…とんでもない日常が始まりそうだ。





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