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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●




「…は?」
「あ゙ん!?」



唖然として口を半開きにしたまま硬直するあたしの代わりに、特攻隊長が躊躇することなくリーゼント男に詰め寄った。
待てッ!と止める間もなく、男の胸ぐらを掴み上げる。



「てめぇ…うちの総長に何言ってンだコラ」
「……」
「やめろ、手は出すなって言ったろ」
「でもッ」
「いーから」



なだめれば仕方なく、盛大に舌打ちを響かせながら胸ぐらを手放す。

ここで手を出して、チームを潰されたらとんでもない。
穏便に済ませるのが一番だ。



「…何の冗談か知らねーけど、そういうの嫌いだからやめてくんない?」



リーゼント男の言葉で拍子抜けしてしまい、脱力して持て余す手でうなじを掻く。
黙って見つめてくるその男を見つめ返して、沈黙が続いた。

男の後ろに立っている3人は、特に何を言うでもなく…男の背中を見つめていて。
あまりにも無言を貫くから、あたしが口を開いた…直後。



「好きだ」
「……は?」
「付き合ってほしい」
「……だから、そういう冗談嫌いだって、」
「冗談じゃねぇから」



なんてタチの悪い。

男に興味はない。
だからと言って恋愛対象が女、ってわけでもないけど…恋人なんていらないし、どうでもいいと思っている。
だから断ってるんだけど…どうすっか。

つーか背ぇ高いな、首が疲れる。
コイツ名前なんだっけ。
黒龍の総長だってことはわかるけど…
そもそも、何で話したこともない奴に告白されなきゃならないんだ。



「オレは佐野真一郎」
「…そう」
「妹に絆創膏くれてありがとな」
「…は?」



妹?…ということは、何歳かはわからないけど女の子だ。
男…佐野真一郎は絆創膏、と言った。
必死に思考を巡らせて、絆創膏につながる少女を記憶の中から探しだし……ひとつだけ、思い当たることがある。

一週間前、たまたま通りかかった公園で転んで泣いてる女の子がいて…たまたまポーチに入っていた1枚の大きめの絆創膏をあげたのだ。
泣き止んで、笑顔でお礼を言う女の子から離れたあと、男の声が聞こえていた。
それがコイツなのか。



「オレの妹なんだよ。かわいかったろ?」
「…いや、だからって何で告白」
「あー、一目惚れってやつ?」



ハンカチ濡らしてる時、あんたのこと見てたから…そう言って笑う佐野真一郎に、思わず顔を顰める。

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