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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第9章 黒龍の泣き虫くん①《佐野真一郎》●





9月。
寒いような、じんわり暑いようなよくわからない季節に、あいつらはやってきて…出会った。



レディースの総長という肩書きで、チームを引っ張って約2年。
高校を卒業して、ある時、そろそろ引退しようかな…と何気なくこぼしたら必死に止められた。



『姐さんじゃなきゃ今のチームはまとめられないっスよ!!!』

『アタシらがついて行きたいのは姐さんだけなんです…ッ!』



なんて、全員に号泣され、しがみつかれて…
もらい泣きして、一緒に笑ったのを覚えている。




あたしと副総長、そして特攻隊長の奢りで配ったアイスをみんなで食べながら、アジトとして使わせてもらっている廃倉庫でいつも通り、仲間たちで集まって騒いでいた。


突然、けたたましくバイクのエンジン音が外で響き…倉庫内に緊張が走る。

しばらく抗争はなかったし、宣戦布告も受けていない。
この辺の小さなレディースのチームは既に潰して傘下になっているし、来るとしたら都外か、“遊び”に来たヤツか。

どっちでもいい。潰すだけ。

それにしても思ったよりバイクの音が少ないな…と首を傾げようとしたその時。

すぐそば…重い鉄の扉を開け放したままの入口でバイクのエンジン音が止んだ。
見ると、停まったのは4台のバイク。
黒い特服を身にまとい、イカつい顔でバイクから降りている。

ふと、バイクから降りる際に背を向けた一人の男。
特服の、背中の文字を見て…倉庫内にいる全員が凍りついた。



「う、うそ…あれって…」
「ぶ、黒龍…ッ?」



初代、黒龍。

暴走族やレディースに関与する者なら、知らない者がいないほど、デカくて有名な族。

なんで…そんな奴らがここに。
関わろうとしたことはないし、チームの誰かが喧嘩を吹っかけたわけでもない。



「騒ぐな。とりあえず、手は出すなよ」



あたしの落ち着いた一言で、みんなは口を噤んで固唾を呑む。

ゴツイ男、ロン毛男、色素が薄い髪の男、そして…リーゼントの男を筆頭に、その4人が倉庫に入ってきて。

あたしの目の前で、立ち止まった。



「蕪谷蛍」
「…何の用」



ズボンのポケットに手を突っ込んだリーゼント男が、大きく息を吸い込んで…



「オレの女になってくださいッ!!!」



勢いよく頭を下げた。

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