第8章 飛び級しますッ《場地圭介》
両手の指先をくっ付けてもじもじしながら、返事をしてくれた圭介さんの目の前まで行く。
動物たちのおやつの時間になったせいか、圭介さんは戸棚に隠してあるおやつを取り出していてこちらを見ていない。
ほっぺにちゅー、…できるチャンスだ。
おでこは届かないからほっぺに。
今だ!…と思って背伸びしたけど、その先の勇気が湧いてこなくて。
ヘナヘナと背伸びした足を地面に戻した。
「…んあ?なに」
「あ、いや…えと」
キャットフードを手にしたまま、こっちを見てくれた圭介さん。
至近距離…かっこよすぎて顔が熱くなっちゃうし、ドキドキと心臓がうるさい。
圭介さんに聞こえてしまいそうだ。
エマちゃん…やっぱり私には無理だよ…!!
な、何でもないです…と踵を返そうとした…刹那。
額に、何かが触れた。
「………え?」
何か、の正体を探ろうとゆっくり顔を上げれば、数センチの距離にある圭介さんの顔。
思わず仰け反りそうになって、でもそれどころじゃなくて。
思考が追いつかない。
「…え、な、けいすけ、さん…?」
「あ?…こういうことしたかったんじゃねぇの」
「へ!?」
エマと話してたろ、なんて。
サラッととんでもない暴露をした圭介さん。
聞いてたの!?あの会話をッ!??
なんてこった!!
恥ずかしい以外の何物でもない。
私の額に一瞬だけ触れたのは、圭介さんの唇。
気づいたのは、羞恥のあまり涙が滲んだ時で…遅すぎた。
でも…どうしてちゅーなんかしたんだろう。
恋人ですらないのに…
ぐるぐる頭の中で考えて、目が回りそうになっていたら。
見兼ねたらしい圭介さんが、いつもみたいに髪をぐしゃぐしゃにして頭を撫でてくれた。
「…他は卒業してからな」
「…っ、は?」
何言って…?
「オマエまだ未成年だし、…無理だろ。いろいろ」
「!?え、え?じゃあ私飛び級しますッ」
「っ、はぁ?」
「そしたら結婚しましょう!いやしてくださいッ!!」
圭介さんと結婚するという幸せのためなら、会うのも我慢して猛勉強して、飛び級してやりますよ私は!!
「オ、マエなぁ…それは女が言っても格好つかねぇだろ」
「…ぁ、え?」
つ、つまり…?
ガシガシと頭をかいた圭介さんは、意地悪な笑みを浮かべていて。
その笑顔も好きだなぁ、なんて…