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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》




「……は?」



翌日。
少し気持ちが落ち着いたオレは、蛍の通う中学も昼休みだろうと思って、電話をかけてみた。
電話に出れなかったり、電波が届かなかったり、電源が切れてたりしたら、コール音かたまに聞く音声が響くだけ。
そうじゃなくて例えば、電話に出たくなくてコール音がずっと続いて留守電に繋がるならまたかけ直すし、いくらでも待つつもりだった。全然マシだった。


──“ おかけになった電話番号は、お客様のご希望によりお繋ぎできません。”


電話の向こうから機械的に聞こえてきたのは、今まで一度も聞いたことのない言葉だった。

着信拒否、されている。
そう理解するのに、5分を要した。



「…なん、で…何でだよ、蛍…」



好きな人ができた、って、オレじゃなくて他の男ってことだろ?
なぁ、誰だよ。いつ知り合ったんだよ。オレよりお前を大事にしてくれる男なのかよ。

こんなに好きなのに。大事にしてたのに。悪いことしたらちゃんと謝ってたし、お前も「いいよ」って笑って抱きしめてくれてたじゃん…。

何か足りなかった?オレの愛情?伝わってなかったとか?

なら、ちゃんと伝えられるように頑張るから、考えるから、だからさぁ…



「蛍…っ」






── …ご、ごめん、本当にごめんなさい…






「……あれ、…?」



拳を握り視界が滲みそうになった時、昨日の電話越しの蛍の声を思い出す。

涙声、だった。
今にも泣き出しそうな声だった。
一年間ずっとそばにいたオレだからわかる。
昨日の蛍は、オレと喧嘩した時よりも、なにか辛いことがあった時よりも、悲しく切なそうな声をしていた。

もしかしたら、と。
なにか、蛍の身に何か良くないことがあって、仕方なくオレと───…



「マイキー」



突如背後から聞こえた声に、ハッと意識を戻される。
無意識に頭を抱えていたオレは、よく知る相棒の声に落ち着きをとり戻して、ゆっくり振り返った。



「…ケンチン」
「電話くらい出ろよ」
「……ごめん」
「何かあったのか。昨日…蛍と」



昨日あれだけ騒いで荒れたのだ。
いつも一緒にいるケンチンが、聞きに来ないわけがない。

話したくねーな…と思いながらも、重い口をゆっくりと開いた。


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