第8章 飛び級しますッ《場地圭介》
「え、でも、圭介さんが帰るとき寒いんじゃ…」
「オレは車だから気にすんな」
ほら、と羽織らせてくれたパーカーからは、ふわりと圭介さんの香りがして。
大人しく腕を通すと、くしゃくしゃと頭を撫でてくれた。
乱れた髪を手ぐしで直しながら思わず圭介さんを見上げれば、口角を上げて八重歯が見えていて…嗚呼、本当にかっこいいなぁ、なんて改めて思って口を結んだ。
む、胸きゅんが止まらない…
「女の体は冷やすもんじゃねぇって、オフクロがいつだったか言ってたし」
「!?」
「返すのはいつでもいーから。風邪ひくなよ」
…おッ…お義母様ァ!!!
圭介さんはこんなにも女性に対して優しい大人に育ちました!あなた様の教育の賜物ですよッ!!!
好き、もうめちゃくちゃ好き、大好きッ、何でそんなに優しいんですか圭介さん…泣きそう…ッ!
「ぁ…ありがとう、ございます…家宝にします…」
「?いや、返してもらんねぇとちょっと困るわ」
「え、…ゆ、ユ〇クロですか…?同じの買ってもいいですか?」
「おー。学生には高ぇかもしんねぇけどな」
「使う用なくてお小遣いは貯まってるので…買います」
「そうか?じゃあオソロだな!」
「ん゙ッ」
笑顔が太陽より眩しいッ…!!
「送っていけりゃあ一番いいんだけどな」
「いえ!気持ちだけで全然…!パーカーお借りしますね!」
「おー、気ぃつけて帰れよ」
「はい!また明日!」
「はぁ?明日も来んのかよ…」
「一虎くん、シッ」
最後の二人の声なんて、るんるんで圭介さんしか見えてない今の私には聞こえるはずもなく。
圭介さんだけに手を振って、お店を出た。
パーカーはぶかぶかで、袖が余って萌え袖になっちゃってるから…思わず両手を鼻に持っていく。
ふふ…圭介さんの匂い〜っ…!
ぅ゙…召されそう…
数日後の今日、日曜日。
塾は休みだから、朝からお店にお邪魔している。
何だか機嫌の悪いハネツキさんに悪態をつかれて散々だけど、圭介さんが愛しいから気にしない!好きッ!
そんないつも通りの、平凡な午後のこと。
お店の前に車が一台停まった。
誰だろう?とお店の中から様子を伺っていると、二人の男女が降りてきて。
カップル?夫婦?と思ったけど、久しぶりに見るその姿に思わず、笑顔が溢れた。
「マイキーくん!エマちゃん!」