第8章 飛び級しますッ《場地圭介》
「お客さんだろ?今日寒いよなー、中入んなよ」
「あ、ぅ…はい…」
私に向かって首を傾げると同時に、リン、と片耳に付けているピアスが鈴のように鳴る。
泣きぼくろがえっちぃ…そして何より首元の虎さんが気になる、刺青?ホンモノかな?
少しだけ微笑みながらお店のドアを開けてくれたから、思わず思考を放棄してしまって中に足を踏み入れた。
待って…この人めちゃくちゃイケボ。
どういうこと?
見た目は女の人なのに…声が、完全に男…
ハスキーなだけ??
「よぉ、来たか」
「!…けい、すけさん…」
「あ?場地の知り合い?」
口調も男だけど!??
大好きな圭介さんが棚の整理をしていて、八重歯を見せて笑って声をかけてくれたのに、もう意識がぜんぶ隣に立つその人に行ってしまって。
外に出たばかりなのに、私と一緒にお店の中に入ってそのまま留まり…圭介さんを呼び捨てにした。
……呼び捨て!?
「まぁな。バイトでも何でもねぇけど、色々手伝ってくれてる」
「え、え?」
「へー、常連みたいな?女子高生とか珍しいな」
「え?ちょ、んん?」
肩にかけたバッグの紐を握りしめ、圭介さんと彼女?彼?を交互に見つめる。
挙動不審な私を訝しげに見つめ返すその人に、思わず喉からヒッと声が漏れた。
「あー、紹介するわ。こいつ、羽宮一虎。オレのダチな。昨日からここで働いてんだよ」
「…もしかしてアンタ、千冬が言ってた場地のヨメ?」
「ヨメじゃねーわ!おいコラ千冬ぅ、一虎に変なこと吹き込んでんなよッ!」
ヨメ?…嫁ッ!??
私って圭介さんと結婚してたんだ!!(違う)
「は、ハネミヤカズトラさん…てっきり女の人かと…」
「…あー、そういうことか。顔綺麗なだけで男だぜこいつ」
「場地に綺麗って言われてもあんま嬉しくねぇ」
「…グスッ…恋人かと、思いました…」
「…変な勘違いしてんじゃねぇよバーカ」
安堵で思わず緩んだ涙腺。
同時に流れてきた鼻をすすれば、圭介さんは笑って頭を撫でてくれた。
ぐしゃぐしゃにされた。
…でも手つきが優しくて、思わず笑みが零れる。
「…オレらは何を見せられてんの?」
「気にしたら負けですよ、一虎くん。早く慣れた方が身のためです。特に蛍」
「ぅうるさいですよマツコさん!」
「松野だッて何回言えばわかんの?なぁ」