第8章 飛び級しますッ《場地圭介》
「っも、元はと言えば圭介さんが悪いんですよ…私がいない間に恋人作るくらいならっ…や、優しくしないでくださいよぉ…ッ」
少しは近づけたと思ったのに。
圭介さんが優しくするから、期待して、告白したらOKもらえるかなぁなんて、自惚れてたのに。
バカみたい。
圭介さんじゃなくて、私がバカなんだ、きっと。
《あ?…ンだそれ、恋人なんかいねぇよ》
「…ぅ、うう嘘だっ」
《何をコンキョに…》
「だ、だっで、グスッ、きれいな女の人が…っ」
《女ぁ?》
サラサラの黒髪を靡かせて、スタイルも良くて、顔は見てないけどわかる…美女オーラがあの人から溢れていた。
勝てない、なんて。
土俵に立たせてもらえてるかもわかんないのに、そんなこと思っちゃう。
だって、圭介さんが好きなんだもん…。
一目惚れしたから、とかそんな甘っちょろい言葉で片付けられないくらい、この2ヶ月余りで圭介さんのいい所をたくさん知ったし、ちょっとおバカっぽいとこも見れたし、圭介さんの色んなことを知る度にどんどん好きになっちゃって、止まんなくて。
この恋は、そう簡単に抜け出せない沼の底まで落ちてしまっているんだ。
《…何のことか知らねぇけどよォ、ミケがお前のこと待ってんだよ。全ッ然鳴きやまねぇ》
「…圭介さんは、待っててくれないんですか」
瞼と目尻がヒリヒリする。
鼻をすすりすぎて頭も痛いし、眼球の乾く感覚がめちゃくちゃ気持ち悪い。
ぽろっと口から出た私の本音は、流されるんだろうか。
何言ってんだ?って…片方の眉を上げて言うのかな…
《……ペヤング作って待ってるッつったろ》
「…え?」
《来ねぇんなら、オレが千冬と食っちまうからな》
「……き、今日は顔やばいんで、…ごめんなさい、明日…いきます」
予想外の言葉に、頭痛のせいで思考が追いつかなくて。
《おー》って、いつもの少し気だるげな返事に、心がそわそわして。
待ってくれてるんだ。
3日前に言った通り、圭介さんは待っててくれてたんだ。
そう考えると、勝手に頬が緩んでしまって。
通話が切れる前に、「圭介さん大好き」って、思わずクスッと笑いながら呟いた。
《……明日な》
来るのが遅いからって理由で、仕事中のはずなのに電話をかけてきてくれたことが嬉しくて…微妙な沈黙を気に留めることなく、通話を切った。