第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「ぁ…ゃ、待っ、て、ここでするのっ…?」
「…ベッドいくか?」
真っ赤な顔で頷く蛍にキスをしながら抱き上げて、寝室へ移動しようとして…慌てて振り返る。
財布を忘れるとこだった。
テーブルに置いている財布を掴んだオレに、首を傾げる蛍。
無言で見つめてくるからチラッと視線を返して「…ゴム入ってるから」と口先だけで告げる。
ぁ、と小さく声を漏らした蛍はそのまま俯いてしまった。
用意周到…だなんて思われただろうか。
…いや、用意周到にもなるだろ、彼女がいる高校2年生男子だぞオレは。
いつ何処でこういう状況になるかわかんねぇし(まさか今日だとは思わなかったけど)持っててもおかしくないだろ。
…まあ彼女持ちの友人から貰ったもんだけど。
ちなみに断言するが、タケミっちではない。
寝室へ着き、ドアをしっかり閉めて蛍をベッドに下ろして座らせる。
財布を枕元に置いてから蛍に覆い被さるようにベッドに膝をつけば、どこか泣きそうな顔でオレを見上げながら手を伸ばしてきた。
キスをして、の合図。
さっき自分で言ってたけど、怖いんだろうな。
キスなら何度もしているから慣れているし、落ち着くから蛍はキスを求めてくる。
「…先にさ、…脱がしていい?」
「っ、…うん」
バンザイの体勢をしてくれる蛍の服の裾を掴んで、ゆっくりと脱がす。
服で一瞬隠れた顔がすぐ襟から出てきて、少しだけ乱れながら落ちた髪が妙に色っぽくて。
脱がした服をベッド下に落とし、顔を近づけた。
「で、何だっけ。キス?」
「っい、言わなくていい…」
「ふは、悪ぃ」
オレは元々だけど、上半身が裸になったお互いの体を特に見ることなく、蛍からの可愛いお誘いに応えるため、後頭部を手で支えながら唇を合わせた。
初めから薄く開いていた隙間に舌を滑り込ませようとすれば、先に蛍が舌を入れてきて…少し驚く。
でもそれ以上に嬉しくて、ゆっくりと押し倒しながら深く求めた。
後頭部に置いていた手で髪をくしゃっと乱せば、蛍もそれに応えるようにオレの首に抱きつく。
密着した体を少し離して、空いている方の手のひらで胸を包み込んだ。
オレの口内に蛍の声が響いて、腰が震える。